2016年8月 1日 (月)

クイケンの「モンテヴェルディ:聖母マリアの夕べの祈り(1610)」(その2)

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【聖母マリアの夕べの祈り:聴き比べ】

Vespro_01

モンテヴェルディ:聖母マリアの夕べの祈り
ティチネッリ=ファットリ、フェッラチーニ=マラカルネ(ソプラノ)、シュヴァルツ(アルト)、タピー、キュエノー(テノール)、フッテンロッハー(バリトン)、フィッソーレ、ルー(バス)
ローザンヌ声楽&器楽アンサンブル
ミシェル・コルボ(指揮)
録音:1966年

Vespro_02

モンテヴェルディ:聖母マリアの夕べの祈り
ジェニファー・スミス,オードリー・マイケル(S) ウィンフォード・エヴァンス,ジョン・エルウィス(T) フィリップ・フッテンロッハー(BR) ミシェル・ブロダール(BS)
ローザンヌ声楽&器楽アンサンブル
ミシェル・コルボ(指揮)
録音:1982年

Vespro_03

モンテヴェルディ:聖母マリアの夕べの祈り
マイケル・チャンス(C-T)、ブリン・ターフェル(Bs)、他
モンテヴェルディ合唱団
ジョン・エリオット・ガーディナー(指揮)
録音:1989年

Kuijken

Claudio Monteverdi (1567-1643)
Vespro della Beata Vergine (1610)
La Petite Bande
Sigiswald Kuijken
Recording dates: 11-13 November 2007
Challenge Classics

・ミシェル・コルボ旧盤(1966年録音)
結論から先に言うと、コルボ旧盤が、一番、私の気に入った(私は、Apple Music でこれを試聴して購入)。コルボ旧盤は流れが良い。自然体。
私が生まれて初めて聴いた「Vespro」は、コルボ旧盤である。←私は、それに刷り込まれた。

(もう一つ。モーツァルトの「ミサ曲ハ短調 K427」の場合も、ヘルムート・コッホ盤が、私が生まれて初めて聴いた「K427」であり、私はそれにも刷り込まれた)

コルボ旧盤は、新盤よりあっさりしている。力みがない(たとえば、第11曲「Sonata sopra Sancta Maria」のコルネットが下手。力抜いている)。繰り返すが、コルボ旧盤は自然体。流れが良い。そして、素朴で明るい。ストレートな演奏であり、聴きやすい演奏と言っても良いだろう。

・ミシェル・コルボ新盤(1982年録音)
流れが悪いと思う。コルボ新盤は、旧盤に比べアクセントが強く、メリハリあるが、それが、ややねちっこく聞こえる。新盤は精緻である。が、その精緻の中、特に前半、すなわち第1曲から第8曲「Nisi Dominus」までは、あまり流れが良いとは、私には思えない(私の思い過ごしか?)。とにかく・・・第1曲から第8曲は退屈する。ところが、第9曲「Audi Coelum」第10曲「Lauda, Jerusalem」では《精緻さ》が生かされているかも知れない(!)。
第12曲「Ave maris stella」は美しいのだが、その「リトルネッロ」は、合唱部分より意図的にかなりテンポが《速い》。このアルバムは、意図、あるいは、恣意性において、もしかしたら、微妙に外しているのかも知れない。
コルボ新旧盤の録音年の違いによる「音質」の良し悪し(1966年、1982年録音)は、私は気にならならなかった。

・ガーディナー新盤(1989年録音)
良い演奏だと思います。
ある意味では、ガーディナーが「Vespro」という作品をヒットさせた(?)・・・その功績は認めるが、この音源は、そろそろ、賞味期限が切れたかも知れない。

・クイケン盤(2007年録音)
クイケン盤は「One Voice Per Part 形式」の聴きやすい演奏であるにもかかわらず、「Vespro」という作品の音楽的形式、宗教的文脈が、リスナーの頭の中に、スーッと入って来ないような気がする・・・ということは、クイケン盤は、分かり易い演奏に見えるが、その演奏は、実は、イレギュラなのか、否か(?)
細かく見ていくと:
・「OVPP」であるがゆえ、合唱が、大合唱団に比べ、比較的、混濁しないで、分離して聞こえる。
・おそらく「OVPP」であるがゆえ「発音」の美しさが聞こえる(たとえば、第2曲「Dixit Dominus」の3行目の「tuos scabellum pedum tuorum」の「tuos」の「u」、「tuorum」の「o」、4行目の「Virgam virtutis tuae emittet」の「tuae」の「u」などなどのメリスマが効いている)
・私の主観では、第6曲「Laetatus sum」までは、一本調子。情緒がないというか、感情の起伏(喜怒哀楽)があまり聞こえない。そして、詩編と雅歌のコントラストが弱いような気がする(第6曲「Laetatus sum」までは、退屈させられる)。ところが、私の主観では、第7曲「Duo Seraphim」から第10曲「Lauda, Jerusalem」までは、もしかすると、その一本調子が消えるような気がする。生き生きしてくる。
第12曲「Ave Maris Stella」は、カトリシズムの敬虔(聖母マリア崇敬)が聞こえる名曲だと思うが、クイケン盤においては、その静的敬虔は、動的演奏によって弱められていると思う。
第13曲「マニフィカト」は、男声が歌っている箇所が多い。クイケン盤のマニフィカトはバスが活躍する(やはり、コルボ盤、ガーディナー盤のソプラノの方が美しいかも知れない)。しかし、クイケンは、もしかしたら「Vespro」における女声(カストラート、ボーイソプラノ)と男声のバランスを考えて、あえて「マニフィカト」を男声に歌わせたのかも知れない(ただし「Suscepit Israel puerum suum その僕イスラエルを受け入れて」は、ソプラノに歌わせている)。
・まとめ
クイケンの「Vespro」は、合理性から成るということが、特長なのかも知れない。

2016年7月22日 (金)

クイケンの「モンテヴェルディ:聖母マリアの夕べの祈り(1610)」(その1)

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Kuijken

Claudio Monteverdi (1567-1643)
Vespro della Beata Vergine (1610)
La Petite Bande
Sigiswald Kuijken
Recording dates: 11-13 November 2007
Challenge Classics

【演奏者】

LA PETITE BANDE
Sigiswald Kuijken, direction / Leitung / direction

Singer / Sänger / Chanteurs
Soprani : Gerlinde Sämann, Marie Kuijken
Alti : Alessandro Carmignani, Paolo Costa
Tenori : Giuseppe Maletto, Fabio Furnari, Jean-François Lombard
Bassi : Marco Scavazza, Fulvio Bettini, Valter Testolin

Instruments / Instrumenten / Instruments
Violino da brazzo: Sigiswald Kuijken, Katharina Wulf
Viola da brazzo: Mika Akiha, Marleen Thiers, Ann Cnop
Basso da brazzo: Samantha Montgomery
Contrabasso da gamba: Benoît Vanden Bemden
Organo: Ewald Demeyere
Recorders/traverso: Morgane Eouzan, Stefanie Troffaes
Cornetti: Gebhard David, Frithjof Smith, Josue Melendez
Tromboni: Simen Vanmechelen, Harry Ries, Wim Becu

【演奏情報】

CD 1 53:43

[1]
I Domine ad adjuvandum me 2:11
tutti

[2]
II Dixit Dominus: (Psalm 109) 7:59
Cantus Gerlinde Sämann - Sextus Marie Kuijken - Altus Alessandro Carmignani - Tenor Fabio Furnari
Quintus Jean François Lombard - Bassus Fulvio Bettini

[3]
III Nigra sum 3:03
Tenor - Fabio Furnari

[4]
IV Laudate Pueri à 8 (Psalm 112) 6:33
Cantus Gerlinde Sämann - Altus Alessandro Carmignani - Tenor Giuseppe Maletto - Bassus I Marco Scavazza
Sextus Marie Kuijken - Septimus Paolo Costa - Quintus Jean François Lombard - Bassus II Valter Testolin

[5]
V Pulchra es 3:24
Cantus Gerlinde Sämann - Sextus Marie Kuijken

[6]
VI Laetatus sum (Psalm 121) 7:37
Cantus Gerlinde Sämann - Sextus Marie Kuijken - Altus Jean François Lombard
Tenor Giuseppe Maletto - Quintus Fabio Furnari - Bassus Valter Testolin

[7]
VII Duo Seraphim 5:46
Tenor Giuseppe Maletto - Quintus Fabio Furnari - Altus Jean François Lombard

[8]
VIII Nisi Dominus à 10 (Psalm 126) 4:45
I Cantus Gerlinde Sämann - Altus Alessandro Carmignani
Tenor Marco Scavazza - Quintus Giuseppe Maletto
Bassus Fulvio Bettini
II Cantus Marie Kuijken - Altus Paolo Costa - Tenor Jean François Lombard - Quintus Fabio Furnari
Bassus Valter Testolin

[9]
IX Audi Coelum à 6 7:37
Tenor Marco Scavazza - Quintus Fabio Furnari - Cantus Gerlinde Sämann - Sextus Marie Kuijken
Altus Giuseppe Maletto - Bassus Valter Testolin

[10]
X Lauda Jerusalem (Psalm 147) 4:42
Cantus Gerlinde Sämann - Altus Giuseppe Maletto - Quintus Fulvio Bettini - Tenor Marco Scavazza
Sextus Marie Kuijken - Septimus Fabio Furnari - Bassus Valter Testolin

CD 2 32:22

[1]
XI Sonata sopra Sancta Maria 6:33
Cantus Gerlinde Sämann

[2]
XII Ave Maris Stella à 8 6:53
I Cantus Alessandro Carmignani - Altus Giuseppe Maletto - Tenor Fabio Furnari
Bassus Fulvio Bettini
II Sextus Paolo Costa / Giuseppe Maletto (solo’s)
Septimus I Jean François Lombard - Quintus Marco Scavazza - Septimus II Valter Testolin

XIII Magnificat à 7

[3]
Magnificat 0:44
Cantus Alessandro Carmignani - Sextus Paolo Costa
Altus Jean François Lombard - Tenor Marco Scavazza
Quintus Fabio Furnari - Bassus Fulvio Bettini - Septimus Valter Testolin

[4]
Et exultabit 1:19
Altus Jean François Lombard - Tenor Fabio Furnari - Quintus Giuseppe Maletto

[5]
Quia respexit 1:52
Quintus Fulvio Bettini

[6]
Quia fecit 1:19
Altus Jean François Lombard - Bassus Fulvio Bettini - Septimus Valter Testolin

[7]
Et misericordia à 6 2:12
Cantus Alessandro Carmignani - Sextus Paolo Costa - Altus Giuseppe Maletto - Tenor Marco Scavazza
Bassus Valter Testolin - Septimus Fulvio Bettini

[8]
Fecit potentiam 1:02
Altus Jean François Lombard

[9]
Deposuit 1:54
Quintus Fulvio Bettini

[10]
Esurientes 1:32
Cantus Alessandro Carmignani - Sextus Paolo Costa

[11]
Suscepit Israel 1:26
Cantus Gerlinde Sämann - Sextus Marie Kuijken - Tenor Giuseppe Maletto

[12]
Sicut locutus 1:10
Altus Fabio Furnari

[13]
Gloria Patri 2:10
Tenor Marco Scavazza - Quintus Fabio Furnari - Cantus Alessandro Carmignani

[14]
Sicut erat 2:05
tutti

【収録情報】

クラウディオ・モンテヴェルディ:『聖母マリアの夕べの祈り』全曲
ゲルリンデ・ゼーマン(ソプラノ)
マリー・クイケン(ソプラノ:ジギスヴァルト・クイケンの娘)
アレッサンドロ・カルミニャーニ(カウンターテナー)
パオロ・コスタ(カウンターテナー)
ジュゼッペ・マレット(テノール)
ファビオ・フルナリ(テノール)
ジャン・フランソワ・ロンバール(テノール)
マルコ・スカヴァッツァ(バス)
フルヴィオ・ベッティーニ(バス)
ヴァルテル・テストリン(バス)
ラ・プティット・バンド
シギスヴァルト・クイケン(指揮)

録音時期:2007年11月11-13日
録音場所:ベルギー、ルーヴェン、ドミニコ修道会教会
録音方式:デジタル(セッション)

・・・・・・・・・・

以下、クラウディオ・モンテヴェルディ作曲:「聖母マリアの夕べの祈り(以下、Vespro と略す)」について、私が私の日記帳に書いたメモ(走り書き)に基づき、この「Vespro」という作品の解釈等を箇条書きします。
とても読みにくいと思いますが、ご了承下さい。

【前置き1】

モンテヴェルディの「Vespro」入門者へ、最も参考になるサイトが在るので、まず、それを紹介する。是非お読み下さい:

クラシカリストさんの日記

クラシカリストさんには、上記ページ「クラシカリストさんの日記」からの引用と、そのページへのリンク、快諾頂きました。ありがとうございますm(._.)m

>クラシカリストさんのページからの引用:

(Vespro クイケン盤は)最後の3曲になってようやく管弦楽が加わり、ラ・プティット・バンドのもつ典雅で柔らかなアンサンブルに。素晴らしい音をもつ団体だと思う。(中略)管弦楽の加わった最後の3曲は完璧と呼びたいもので、ここまで聴いてきた中でベストと言える内容かもしれない。
(中略)
オススメ盤をざっくりまとめると、
・初めて触れる人にオススメ:ガーディナー新、鈴木雅明
・2枚目以降にオススメ:アレッサンドリーニ、ガーディナー旧
・さらに色々聴いてみたい人にオススメ:パロット、マクリーシュ、クイケン
・個人的に好き:サヴァール

【前置き2】

私は「Vespro」を理解するために、その歌詞対訳をしました。
ちなみに、私は、大学1年のとき、1年間だけ、ラテン語を履修しました。でも、たった1年学んだだけではラテン語は読めません・・・それにラテン語忘れた・・・ラテン語入門の教科書も火事で燃えました。

歌詞対訳に際して。
「Vespro」のテキストは、そのほとんどが、聖書から取ってますから、その部分は、聖書を丸写しした。

(※なお、私は、本ブログにおける『新共同訳 聖書』からのテキスト引用について財団法人日本聖書協会から許可を得ております。)

その他の楽章(聖書のテキスト以外の楽章)、すなわち、第9曲「Audi Coelum à 6 Motetus(作者不詳)」および第12曲「アヴェ・マリス・ステラ」は後藤暢子さんの訳を転載しました(無断転載ごめんなさい!)

クラウディオ・モンテヴェルディ:聖母マリアの夕べの祈り (1610)/ラ・プティット・バンド/ジギスヴァルト・クイケン(指揮)歌詞対訳(pdf ファイル)

(※上記「Vespro」歌詞対訳は、各楽章の題名の上に「歌手名(Vespro クイケン盤)」を記入した。)

【2016−7−24 追加】 声部の呼称について(序数の意味:以下、ある人から教えてもらった事です)

<--- ココから --->

>>>「Tenor」はグレゴリオ聖歌を歌う声部で「tenere=保持する」=「グレゴリオ聖歌を保持する」に由来すると考えられているとのこと。

この意味で、「Tenor」が基準となって、上に追加される声部が「第2声部 Duplum」「第3声部 Triplum」と呼ばれた時代がある(「Tenor」を第1声部と考えると声部の呼称はもともと序数であったか?)。

>>>たとえば、13世紀のレオニヌス、ペロテイヌスのオルガヌムでは、

Triplum
Duplum
Tenor

という例があるとのこと。

時代を遡ると、Alto = contralto(コントラルト) = contratenor altus(略して、altus)
ラテン語の「altus」は高いを意味する。したがって「contratenor altus」は「tenor に対して(contra)高い(altus)」という意味(英語のカウンターテナー countertennor は「contratenor altus」の略だろう)。

>>>14世紀の有名なマショーの《ノートルダム・ミサ》では、4声部が以下のように名付けられています。ここでも、Tenorはグレゴリオ聖歌を担います。

Triplum
Motetus <=== コレがよく分からないが(汗;;
Tenor
Contratenor

これが後に

Cantus(ドイツ語で歌、メロディ、高音声部の意味あり)
Contratenor altus
Tenor
Contratenor bassus

となっていきます。
つまり、「Altus」というのは、もともとは「テノールより高い声部」という意味で、「Bassus」は「テノールの土台」という意味だったと考えられます。これが短縮されて、クイケン盤の声部の表示:

Cantus
Altus
Tenor
Bassus

になったと考えられます、とのこと。序数:Quintus(5番目、テノール2)、Sextus(6番目、ソプラノ2)、Septimus(7番目、カウンターテナー2)は、上記4声に、更に追加された声部のことだろう(←しかし、コレはあくまで便宜的であって、厳密ではないような気がする)。

【2016−10−20 追加】

なお、独々辞典(Duden)によると、ドイツ語女性名詞「Basis(読み:バージス。基礎、土台)」は、ラテン語(basis) < ギリシャ語(básis)、が語源であり、その意味は、gehen(歩く)、treten(歩む) であった。よって、ドイツ語女性名詞「Basis」は、本来「人がその上を歩むことができる物(Gegenstand, auf den jemand treten kann)」という意味であり、それが転じて「(踏み固められた)基礎、土台」というい意味になったらしい。

Basis, die |Basis|
die Basis; Genitiv: der Basis, Basen
HERKUNFT lateinisch basis < griechisch básis, zu: baínein = gehen, treten, also eigtl.(eigentlich) = Gegenstand, auf den jmd.(jemand) treten kann

(以上、Mac OS X に付属の独々辞典「Duden-Wissensnetz deutsche Sprache」より)

<--- ココまで --->

【前置き3】

実は、私は、ルター派のクリスチャンです。ですから、自分で言うのは何ですが、バッハのカンタータには強い。しかし、カトリック音楽には弱い。そもそも私は晩課(Vespro)というものを知らない。私は、それに参加したこともないし、見たこともないし、歌ったこともない。晩課というのは、要するに、夕方のミサのことだろう。が、ルーテル派では「受苦日(イースターの2日前の金曜日)」「クリスマス・イヴ」以外に、私は「夕方〜夜の礼拝」に出席したことないと思う。
私が「Vespro」の歌詞対訳をしたのも(上記前置き2)、そもそも、挽課では、何を歌うのか知るためであった。

【前置き4】

私が、「Vespro」を、どのように受容したか、その経緯について。
私が、初めて、「Vespro」を聴いたのは、高校生のとき、FM放送でこの作品を、モノラル・ラジカセでエアチェックした時だと思う。その時は、第11曲「Sancta Maria, ora pro nobis」第12曲「アヴェ・マリス・ステラ」および「マニフィカト」しか聴かなかったと思う(記憶は定かではないが、ミシェル・コルボ盤)。
その後、社会人になって、私は、ガーディナーの「Vespro」を購入したが、やっぱり、第11曲、第12曲、および、マニフィカトしか聴かなかった(ガーディナーの「Vespro」は火事で燃えたので、再取得した。←2016年7月19日到着。値段:725円。盤面に少し汚れ・傷ありましたが水で拭いたらきれいになった。再生に問題なし)。
そして、クイケンの「Vespro」は、2016年7月4日に取得した。それによって、私は、このモンテヴェルディの「Vespro」を、初めて、真剣にじっくり聴いた。

以下ランダムに。


結論から言うと、そして正直に言うと・・・ヘンデル・バッハ以前には、「Vespro」のような巨大な宗教曲はないと思うが・・・私は「Vespro」という作品について「それが巨大な作品であるという事」以外は、分からない。

「Vespro」という作品は、謎が多い作品と言われるが、確かに、コレは「Vespro」という名を借りた巨大な「化け物的作品」であり、正直言って、この作品は私には訳が分からない・・・それは奇妙・・・とまでは言わないが「変わった作品やなぁ〜」「こんな変な曲は初めて聴いた」というのが、今の私の「Vespro」に対する印象である。

「Vespro」は、オラトリオに近いが、ストーリーを持たない。(これは多分外していると思うが)Vespro はある種『組曲』のような感じがする。なぜなら、たとえば、複数のモテット OR コンチェルトが組み合わされているから。


また、たとえば、ヘンデルの「メサイア」、バッハの「マタイ受難曲」が、チャールズ・ジェネンズ、ピカンダーという優れた台本作家のコンセプトに基づいて(そのコンセプトに忠実に)作曲された作品であるのに対して、「Vespro」は、その台本を誰が書いたか不詳(?)。そして、その台本に対して、私は、「多様性」より「不統一」を覚える。繰り返すが、「Vespro」のコンセプトが、今の私には分からない。
ただ一つ分かることは、「Vespro」は、ヘンデルの「メサイア」やバッハの「マタイ受難曲」が大作だが見通しが良いのに比べ、多様の集合であり見通しがあまり良くないということ。繰り返すが、「Vespro」は、独立した作品であるというより、寄せ集めに聞こえる。


たとえば、「Vespro」は、その第9曲「Audi Coelum」より前の楽章では、聖母マリア崇拝をしていない。と言うか、聖母マリアは出て来ない(それは当たり前です。なぜなら、第8曲までの歌詞は、ほとんど旧約聖書から取られているから)。
ちなみに、私は、クリスチャン・・・なので、聖書を読むのが好き・・・なので、この作品の歌詞を《深く》読むことに抵抗を感じない。が、クリスチャンでない人は、この作品の歌詞に興味ないだろうし、それを読むことに退屈するかもね(!)。


ただし、英語版ウィキペディアによると、モンテヴェルディの「Vespro」は、「Vespers(挽課)」に由来し、それは、カトリック教会において、1500年間その構造が変わらなかった「聖務日課」に基づく「挽課」なのである、ということが書いてあるようだ(The term "Vespers" (evening prayers) is taken from the Hours of the Divine Office, a set of daily prayers of the Catholic Church which have remained structurally unchanged for 1500 years.)


とにかく、「Vespro」は、その中身は盛り沢山・・・フランス料理のフルコースみたいで、お腹一杯になる。こんな長い音楽を、実際に全曲演奏する機会が、その当時あったのか(?)と、思わせられる。そして、私は上記で「Vespro」は「巨大な化け物的作品」と言ったが、それにもかかわらず、「Vespro」は(聴き応えがあるだけでなく)親しみやすい。たとえば、第3曲「Nigra sum」。これは、可愛らしい女性アイドルが歌っても良いような、軽い歌詞(第3曲「Nigra sum」は、女が歌うべき歌詞なのに、それをテノール独唱が歌う)。第5曲「Pulchra es」はラブソングである(これは男が歌うべき歌詞なのに女性が歌う)。


なお、第3曲「Nigra sum」第5曲「Pulchra es」第7曲「Duo Seraphim」第9曲「Audi Coelum」は、モテット、または、コンチェルトである。


「Vespro」は、モンテヴェルディの宗教音楽作曲家としての腕の良さを感じさせる。繰り返すが、それは聴き応えがあり面白い。
すなわち、拍子・テンポ・調性の変化・交替。
たとえば、第11曲「Sancta Maria, ora pro nobis」では、拍子とテンポが、どんどん、変わるのは、前衛的だ。←コレの53分31秒を見れば分かります。

このソナタでは、単旋律聖歌を11回唱えることで、一種のリタニア(ひとまとまりの嘆願)を形成している。9回目のカントゥス・フィルムスは分断され、短く、涙にむせぶ言葉となっている。(モンテヴェルディ 「聖母マリアの夕べの祈り」より)


私は、上で、「Vespro」は「組曲」のような感じがすると、書いたが、更に言えば、「Vespro」は短編小説を寄せ集めた長編小説あるいは小説集(大袈裟に言えば、源氏物語や、川端康成の「掌の小説」みたいに、私には思えた)。


この作品のソプラノ・パートは(そして、アルト・パートも)、おそらく、カストラートが歌ったと思う(ボーイ・ソプラノが「Vespro」のソプラノ・パートを歌うのは難しいと思う。ただし、ガーディナー盤で第11曲「Sancta Maria, ora pro nobis」を、ボーイ・ソプラノに歌わせているのは美しい。

10
「Vespro」という作品は、男性歌手が歌う部分が多いと思う。第3曲「Nigra sum」は、女性が歌うべき歌詞であるのに、男性、テノールが歌っている(マニフィカトも)。
そして、バッハのカンタータと違って独唱曲が少ない(独唱曲は、第3曲「Nigra sum」第11曲「Laetatus sum」および「マニフィカト」の一部のみ。その他は、二重唱以上の合唱曲)。
そして、形式的には、「Vespro」は、バッハのカンタータと違って「レチタティーヴォ(あるいは、アリオーゾ)とアリア」という形をとっていない・・・というか、「Vespro」は、言わば、合唱がメインであるところの『合唱曲』であるのか(?)

11
「Vespro」の合唱はある意味大胆であり技巧的であり、歌うのが難しいのではないかと思う。たとえば、バッハの合唱曲は、アマチュアでも比較的容易に歌うことができると思うが、「Vespro」の合唱は、ポリフォニーが複雑であり、かつ、古風であり(古臭いメリスマなど)、アマチュアが歌うにはレベルが高いと思う。

例えば、第7曲「Duo Seraphim」は、多分、易しい合唱ではないだろう。英語版ウィキペディアによると、第7曲「二人のセラフィム (Isaiah 6:2-3; 1 John 5:7)」:二重唱から三重唱へ/二人のセラフィムの二重唱(二人は互いに呼び交す)で始まる。三位一体が歌われるところで(イザヤ書とヨハネの手紙一のテキストが混ざるところで)テノールが加わる。その3人はユニゾンで「この三つは一致します」と歌う Duo Seraphim (Isaiah 6:2-3; 1 John 5:7): Vocal duet leading into trio / The text Duo Seraphim ("Two angels were calling one to the other...") begins as a duet. When the text (which melds lines from Isaiah and the First Letter of John) mentions the Trinity, a third tenor joins. All three sing in unison at the words, "these three are one."」

12
「Vespro」は、「詩編」からの引用が多い。また「(ソロモンの)雅歌(英: Song of Songs)」からの引用もあり。
ダビデ、ソロモン。さらに、エルサレム、シオンなど、つまり、ユダヤ人、ユダヤ教の聖地を歌った曲が多く、そのテーマは、現在で言えば、シオニズムである(それが、なぜ、聖母マリアための挽課にて歌われるのか?)。

13
つまり、上で、私が「(この作品の台本および音楽に)不統一を覚える」「Vespro のコンセプトが、今の私には分からない」と書いた理由は、分かりやすく言うと(乱暴な言い方だが)「旧約」と「マリア信仰」が上手くつながっていないと言うこと(ヘンデルのメサイアは、「旧約」「新約」が、スムースにつながっている)。
第9曲「Audi Coelum」で聖母マリアへの祝福が歌われ、第10曲「Lauda, Jerusalem」【注】で、一旦「旧約」に戻る(詩編 147編)。それから、再び「マリア信仰」のための3つの楽曲、すなわち、第11曲「Sancta Maria, ora pro nobis」第12曲「めでたし、海の星」第13曲「マニフィカト」が、取って付けられているように思える(不連続性を感じる)。

【注】 第10曲「Lauda, Jerusalem」は、生き生きした、しかも、堂々たる合唱曲である(テンポが速いガーディナー盤のが良いと思う)。

14
日本語で「光栄讃詞(こうえいさんし。ラテン語で、グロリア・パトリ。ウィキペディアより)」と呼ばれるもの、すなわち「Gloria Patri, et Filio, et Spiritui Sancto. / Sicut erat in principio, et nunc et semper, / et in saecula saeculorum. Amen. 父、み子、み霊にみ栄え / 初めも今も後も / 世々に絶えず / アーメン。(三位一体を讃える詠唱。これは、ルター派でも歌われるので私にとって馴染みがある)」それが、各楽章の「終止(あるいは後唱)」として歌われるが、それは、それぞれの楽章において「異なる趣」を持っているようだ。しかし、この「光栄讃詞」は音楽的には効果的だが、神学的(?)には効果的でないと私は思う(つまり「Gloria Patri... 」は「Vespro」の統一性に関与していないと私は思う)。すなわち、その「Gloria Patri, et Filio, et Spiritui Sancto...」もまた取って付けられているように思える。

15
繰り返すが、私はルター派のクリスチャンである。そして、ルター派は「マリア信仰」をしない。よって、「マリア信仰」について、私はまったく知らない。ただ、ウィキペディアの以下の2つの項が参考になるかも知れない:

マリア崇拝(マリアすうはい、Mariolatry、Marianismo)とは、聖母マリアを崇拝する宗教的行為。キリスト教では禁じられている。これは、カトリック教会でもマリア崇敬とは区別し、禁じている。しかし、一部のプロテスタントの教派は、カトリック教会におけるマリア崇敬を「崇拝」していると捉え、批判している(以下略)(ウィキペディア「マリア崇拝」より)

ローマ・カトリック教会のマリア崇敬(マリアすうけい)とは、聖母マリアに「神への取り次ぎを願う」聖母マリアが「人々と共に祈る」ということであり、三位一体の神に捧げられる礼拝とは、本質的に違うものである。聖母マリアや諸聖人への祈りは、「礼拝」では無く「尊敬・崇敬」、「信仰」では無く「信心」。「マリア崇拝」ではない(以下略)(ウィキペディア「マリア崇敬」より)

聖母マリアに「神への取り次ぎを願う」という事に関しては、第9曲の「Audi Coelum」の中に「Medium(なかだち)」という語で出てきますね。

♪そはつねに人と神との間にありて 全き媒介(なかだち)となれり 罪を癒さんとて

・・・しかし「マリア信仰」について、これ以上、書くと、神学論争みたいな議論になり、不毛な議論になりそうなので、この「マリア信仰」というトピックについての議論はやめます。

16
第11曲「Ave maris stella」は、リトルネッロが効果的であるので、あるいは、協奏的か(?)
この曲は、さすがにモンテヴェルディの名を冠した合唱団だけあって、モンテヴェルディ合唱団&ガーディナーの演奏が、ストレートに美しいと思った。アーメン。

17
「マニフィカト(7声)」は、聖母が言った言葉なのに、何故、「Vespro(クイケン盤)」では、男性が、その多くを歌っているのか?
「マニフィカト(7声)」も、若干、協奏的に聞こえるか(?)・・・というか、ガーディナー盤の「マニフィカト」の最後の曲「Sicut erat in principio」は大音量で演奏されている。それを聴くと、あるいは、「Vespro」という作品は一部交響的だと見ても良いかも知れない。

18
第3曲「Nigra sum」において「tempus putationis advenit」を、新共同訳聖書等で、「刈り入れの時が来た」と訳してある。「putationis」というラテン語には「剪定」という意味があるらしいし、また、その単語の英語訳は「pruning:〈木〉を刈り込む(back);〈枝など〉を切り下ろす, 枝打ちをする(down)」とある。「刈り入れ」と言うと、普通、麦や稲を鍬で刈ることをイメージするので、私は、この「putationis」が分からなかった。が、この「刈り入れ」は、ぶどうの刈り入れだった(ブドウの木の枝を切る)。

19
ペンデレツキの作品に『ウトレンニャ』という作品がある。以下、HMV.co.jp の商品説明にあるように:

1962年に発表された『スターバト・マーテル』、そして1963年の『ルカ受難曲』に連なるペンデレツキ(1933-)の宗教的合唱作品である『ウトレンニャ』の登場です。始めてこの曲を聴いた人は、地の底から響くような合唱に身震いすることでしょう。しかし用いられた詩は、ロシア正教の早朝礼拝の典礼文だというから驚きです。(この曲を朝から聴くのは少々勇気がいることでしょう)
 第1部(名指揮者オーマンディに捧げられた)でキリストの埋葬を描き、第2部ではその復活を描いています。衝撃的な大音量に圧倒される部分も多いのですが根底を貫いているのは静かな神への祈り。聴き終わった時の脱力感がたまりません。(ナクソス)
(HMV.co.jp より)

ペンデレツキによって「早朝礼拝」のために70分を超える作品が書かれた。そして、モンテヴェルディによって「夕方のミサ」のために80分を超える作品が書かれた。・・・ということは、宗教曲、教会音楽において、ヘビーな作品が書かれるのはフツーのことかも知れない。
それにしても、とにかく「Vespro」は、ヘビーな作品だと思う。

【2016−7−30 追加】

第6曲「Laetatus sum」は、通奏低音が、バッハのようにリズムを刻む。

(続く)

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