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2016年1月 5日 (火)

シモーヌ・ディナースタイン&シュ・シャオメイの「バッハ:インヴェンションズ(2声・3声)」(その1)

Dinnerstein

Bach: Inventions & Sinfonias
Simone Dinnerstein
2012 / 13 年録音
SONY

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Zhu

Bach: Inventions & Sinfonias
Zhu Xiao-Mei
2015 年録音
ACCENTUS

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【前置き】

私のブログを訪問して下さる或る読者さんが、「バッハ:インヴェンションズ(2声・3声)」について、下記のようにお書きになっていました。

「インヴェンションは・・・実は曲自体それほど好きではありません。平均律のフーガのように複雑なリズムの主題を持たず、対位法の音の絡み合いでもバッハの曲によく出てくる繋留音(ブログ開設者注:繋留音(掛留音)倚音が前のコードのコード・トーンとタイで結ばれているものを掛留音という。非和声音)が少なく(皆無ではありませんが、大体使い方が単調。このリズム、繋留音の使い方が単調という同じ理由で私はヘンデルやモーツァルトのフーガも嫌いです)、転調もそれほど遠隔調まで行かない。もちろん曲自体はすばらしい出来で、教育的作品という用途と芸術としての完成性がこれほど見事にかみ合った作品はないのですが、やはりそれほど夢中になれない。正確に言うと『弾くのも聴くのも好きだけど、のめりこめない』というところでしょうか。ですから演奏評価に対する美学のようなものも持ち合わせず『いい演奏だな』とは思うものはあっても『これこれこういう理由でこれが最高だ!』と言い切るだけの自信がない。つまりわかりません・・・」

私も、バッハの「30のインヴェンションズ(2声・3声)」は、大好きではない。けれども、そのシンプルさは、嫌いではない。ただし、この曲集は、バッハ独特のエクスタシー(!)が、弱いと思う・・・したがって、どの曲も、相対的に、インパクトに欠け、繰り返し聴くと疲れる。また、一方で、この曲集は練習曲として役に立つ(私はインヴェンション第1番ハ長調の最初の2小節をやっと弾けるようになった。すなわち、私の右手と左手が、初めて、違う動きを出来るようになった。ばんざ〜い(汗)

ハンス・フォン・ビューローが、バッハの平均律クラヴィーア曲集をピアノ音楽の『旧約聖書』と呼んだように、また、上記の或る読者さんが《平均律》の複雑さの中に《何かを見たように》、《平均律》の「複雑さ」こそ、《平均律》が、私たちが生きている現代においても前衛である理由の一つだろう。それに対し「インヴェンションズ(2声・3声)」は、そのシンプルさにおいて、《平均律》に比すると「いにしえのカビがはえた音楽」に聞こえる(また、私は、たとえば、フランス組曲にも少しカビ臭さを感じる)。

「《平均律クラヴィーア曲集》とともにバッハの教育的な作品を代表する名作であるが、かといってツェルニーのピアノ教則本とは似ても似つかない作品である。今日にその最終稿を伝えるバッハの自筆譜に、つぎのような表題が書かれていることからも、それは明らかなことである。
『率直な手引き、これによってクラヴィーアの愛好家、とりわけその学習希望者たちに対し、(1)2声部をきれいに演奏することのみならず、さらに上達して、(2)3つのオブリガート声部を正確かつ快適に処理することを学び、それにあわせて同時に、良い着想(インヴェンション)を得るだけでなしに、それを快適に展開できるようになる、しかし何よりもカンタービレの奏法を会得し、あわせて作曲することの喜びを強く予感するようになるためのはっきりした方法が示される。
 アンハルト=ケーテン領主殿下の学長たるヨハン・セバスティアン・バッハ作。キリスト紀元1723年。』」
(「作曲家別名曲解説ライブラリー J. S. バッハ」254ページより)

インヴェンションズを、モダンピアノで、ノンレガートで弾けば、おのずと、カンタービレになるのではないか? オブリガートは、指が回れば、それによって、その声はオブリガートに聞こえるだろう。しかし、私にとってインヴェンションズの魅力は、それらカンタービレ、オブリガートを生かす装飾音だ。そして、ソレは本来、チェンバロで、チャレンジされるべきではないだろうか(曽根麻矢子あたりが弾いたら、面白いと思う)

私のお気に入りはグレン・グールドとアンジェラ・ヒューイットの「30のインヴェンションズ(2声・3声)」である。すなわち、前者は、例の技巧とロマンティシズムと、饒舌・雄弁・流暢をもって・・・否・・・コノ人の演奏は理屈抜きに上手い。後者は、癖があるが、それと同時に、なんとなく蒸留水のように無味無臭(無味乾燥(?))なのが、かえって良い。

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【さて、本題】

シモーヌ・ディナースタインは「シンフォニアズ」が上手いと思う。彼女の「30のインヴェンションズ(2声・3声)」は、米国アマゾンで高く評価されている。彼女が、アメリカ人であるが故に、米国アマゾンの購買者は彼女を贔屓しているのだろう。
スタインウェイの美音を生かした彼女のインヴェンションズ(2声・3声)は、カビ臭く無い(!)。つまり、モダンだ(!)。たとえば、彼女が弾く「シンフォニア第14番変ロ長調」はモダンだ。しかし、彼女が弾く「30のインヴェンションズ(2声・3声)」全曲はモダンすぎるのが欠点だと、私は感じる。

シュ・シャオメイは《平均律》《パルティータ集》で、新鮮な演奏を聞かせてくれたので、「30のインヴェンションズ(2声・3声)」においても、彼女の、新鮮で、トンデモナイ演奏を期待したが、期待はずれだった(「インヴェンション第1番ハ長調」の速いテンポだけ私は気に入った)。普通の演奏だった! 全然、面白くない演奏だった! (いつの間にこの人は普通の演奏をするようになってしまったのだろう? ただし、シュ・シャオメイが弾く「インヴェンション第1番ハ長調」の速いテンポを私は気に入った)

でも、この2人の演奏は、欠点のない演奏である点、良いお手本になるので、私の評価は、いずれも星3.5。

以上、前置きが長く、本題が短い文章になってしまった。

【2016−1−7 追加】

ディナースタイン盤は、多分、インティメートなところが良い。

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【関連記事】

シュ・シャオメイの平均律第 2 巻

シュ・シャオメイの「バッハ:パルティータ集」

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コメント

にゃんっこ様
KMです

にゃんっこ様の文章を、このエントリー(この記事)と、アマゾンJP に、無断引用してしまいました。

差し障りがあれば、その引用文を削除します(たとえば、上の両方(記事とアマゾン)削除。あるいは、後者アマゾンのみ削除)。

返信お待ちします。宜しく!

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