アリス=紗良・オットのベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」(つづき)
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Beethoven
Sonata No. 3 op. 2 no. 3
Sonata No. 21 op. 53 "Waldstein"
Andante favori WoO 57
Rondo a capriccio op.129 "Rage over a Lost Penny"
Alice Sara Ott
2010 年録音
アリス=紗良・オットのベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」他
私は、アリス=紗良・オットの「ワルトシュタイン」を、非常に気に入っている・・・ので、同曲国内盤を持っていたが、輸入盤も買ってしまった。
とにかく、「ワルトシュタイン」の第3楽章を退屈させないで聴かせるピアニストは、アリス=紗良・オット以外にはいない(バックハウス盤でさえ同曲第3楽章は退屈)。
「《ワルトシュタイン》ソナタは、典型的な古典派のピアノ・ソナタであると考えられている。この作品においては、輝かしいヴィルトゥオジティ、ピアノ演奏技術、完璧な造形意識といったものが、他にほぼ例を見ないほどに密接に関係しあっている。同時に、アリス=紗良・オットもそのことを確信しているが、このソナタを聴くと、ベートーヴェンがこの作品を作曲したのは、いわゆる『ハイリゲンシュタットの遺書』を書いた僅か一年後のことであるのがよくわかる。『ハイリゲンシュタットの遺書』、それは、1802年10月に書かれた、あの恐ろしく意気消沈した手紙のことだ。それまでのベートーヴェンの栄光と希望に満ちたキャリアからは信じられないような内容が、したためられている。『冒頭部分からして、とても陰鬱な感じを抱きます。第1楽章全体が嵐のようです。続いて、第2楽章とともに安らぎが訪れ、第3楽章への移行部で、ようやく太陽が昇ります。この終楽章のロンドは朝焼けのようです。こうした全体が、まさしく当時のベートーヴェンが置かれていた状況を映し出しています。耳が聴こえなくなり、ベートーヴェンは絶望していました。それどころか、自殺しようとさえ考えていたのです。《ワルトシュタイン》ソナタのアレグロ・コン・ブリオ(第1楽章)に、そうした絶望を聴き取ることが出来ます。』」国内盤リーフレットより
アリス=紗良・オットは《ワルトシュタイン》第3楽章を、十分な技巧で弾いていると思う。彼女の第3楽章は、ロンドのテーマのレガートがしなやか。
彼女の演奏は、レガートとノン・レガート(たとえば、下記のスタッカート、3分16秒)の対照が自然。
(バックハウス旧盤第3楽章には、アリス=紗良・オットのしなやかさはない。そして、バックハウス新盤第3楽章は、旧盤より柔らかな演奏であり、貫禄あるが衰えている)。
彼女は、第3楽章で、休止しない。したがって、流れが良い。そして、第3楽章のコーダの3声の部分(8分49秒、第484小節)に行く前の八分音符のパッセージ(8分32秒、第464小節、下記【注】)←彼女はソレを速く弾いていて、カッコいい。
繰り返すが、彼女が弾く《ワルトシュタイン》第3楽章冒頭、ロンドのテーマのレガート、そのしなやかさ、柔らかさ。
そして、そのレガートと、第3楽章におけるノン・レガートの音符との対比。
その二つが、アリス=紗良・オットの「美学」「美意識」を表わしていると言ってもいいと思う。
【注】 オシアでは、オクターブ・ユニゾンで弾かない弾き方もある。アリス=紗良は、多分、オクターブ・ユニゾンで弾いてない。
「ワルトシュタイン」第3楽章、第2のエピソード(あるいは、第3主題。ハ短調) midi
「ワルトシュタイン」第3楽章のコーダ、第464小節(midi)
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【2016−10−10 追加】 アリス=紗良・オットという人は、日本語しゃべれるんですね。ビックリした(ゆーちゅーぶで、彼女が報道ステーションに出演したときの動画を見て)
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