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2014年11月 4日 (火)

パトリツィア(パトリシア)・コパチンスカヤ、マルクス・ヒンターホイザー、レート・ビエリの「ガリーナ・ウストヴォーリスカヤ:ヴァイオリン・ソナタ (1952)、クラリネット、ヴァイオリン、ピアノのための三重奏曲 (1949)、ピアノとヴァイオリンのためのデュエット (1964)」

Ustvolskaya

Galina Ustvolskaya (1919-2006)

Sonata for violin and piano (1952) 22:35

Trio for clarinet, violin and piano (1949)
I Espressivo 6:07
II Dolce 3:56
III Energico 6:08

Duet for violin and piano (1964) 29:20

Patricia Kopatchinskaja, violin
Markus Hinterhäuser, piano
Reto Bieri, clarinet

Produced by Manfred Eicher
Recorded March 2013
ECM New Series 2329

Ustvolskaya_vn_sonata
OnlineSheetMusic.com より
ヴァイオリン・ソナタ (1952)
全曲を貫く音形、冒頭、ヴァイオリン(midi

Ustvolskaya_duet
OnlineSheetMusic.com より
ピアノとヴァイオリンのためのデュエット (1964)
全曲を貫く音形、冒頭、ヴァイオリン、ピアノ(midi

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コノアルバムを、一言で言えば:

「コパチンスカヤが、やってくれました! 〜 ウストヴォーリスカヤ、3つの傑作」

--

コノアルバムに収められてあるウストヴォーリスカヤの3つの作品には標題がない。ただし、第2曲の「クラリネット、ヴァイオリン、ピアノのための三重奏曲 (1949)」は3つの楽章を持ち、それらの楽章は、それぞれ、I Espressivo(表情豊かに)II Dolce(柔らかに)III Energico(精力的に)という発想標語が付けられている。
その他の作品は、単一楽章である。
第1曲と第2曲はやや似ている。第3曲において、ウストヴォーリスカヤは飛躍していると思う。

・第1曲「ヴァイオリン・ソナタ (1952)」
ヴァイオリンのおどけたような「♭ラ♭ミ♭ラ♭ラ♭ミ」の5音の繰り返し(コレは全曲を貫く)と、ピアノの通奏低音的な四分音符(最低音はシミレドレ)に始まる(OnlineSheetMusic.com 参照)。コレは、バロック音楽を皮肉っているのかも知れない。
コノヴァイオリン・ソナタにおいて、冒頭のヴァイオリンとピアノの旋律は、ウストヴォーリスカヤの師匠であるショスタコーヴィチが己が作品に取り入れた民族音楽っぽい《音楽》に発展する・・・ように聞こえる。
全曲は、大まかに言うと、静 - 動 - 静からなる。美と美の否定が反復される。
同曲は、後半13分50秒あたりでテンポを上げ、ポリフォニックな楽想で盛り上がる以外は、単純な音楽に聞こえる。←単純さの中、音楽を上手く構成している。←つまり「複雑さ」と「必要最小限のシンプルな形式」が両立している。その中には、ヴァイオリンとピアノの対位法的な対話がある。
コノ作品は、ピアノに聞き応えがある(ピアノの音符が多い)。一方、ヴァイオリンは比較的淡々としている(ただし、後半13分50秒〜のヴァイオリンは激しい)。

・第2曲「クラリネット、ヴァイオリン、ピアノのための三重奏曲 (1949)」
第1楽章
クラリネットとピアノだけで静かに始まる。→1分21秒あたりからフォルテ。←3つの楽器によって対位法的に激しく展開。→4分00秒あたりで再び静まる。→5分14秒〜クラリネットだけの夜の音楽で終わる(第2楽章とアタッカでつながっているかも)。
第2楽章
主にクラリネットとヴァイオリンだけの楽章(後半に Pf)。←コレも静かな夜の音楽。
第3楽章
「ヴァイオリン・ソナタ (1952)」と同様にポリフォニックな速い音楽で盛り上がる。第3楽章に民族色が聞けると思う(あるいは静かな第2楽章にも民族色が聞けるかも・・・)。
【追加】第3楽章 Energico(精力的に)は Pf のフガートに始まる(そのフガートの主題は第1楽章と関係があるかも知れない)。→ Vn が不完全な模倣で絡む(Vn が、Pf によるフガートの主題と少し異なる旋律で絡む)。→1分10秒あたりから、クラリネットが民族音楽的旋律を先導する(←コノ旋律も第1楽章と関係あるかも知れない)。→2分36秒あたりで静まり、各楽器が、クラリネット(3分06秒)、Vn、Pf の順にフガートの主題を回想。→最後に、4分29秒あたりから、Pf の同音反復のモノローグ。コノ作品は《盛り下がって》終わる。
コノ作品も静と動のコントラストが強い作品であるが、他の2曲に比べて、比較的普通の作品に聞こえる。
「ショスタコーヴィチの教え子達」というサイトに「1949年作曲のクラリネット三重奏曲はショスタコーヴィチのいくつかの作品で主題が引用されていて、聴いてみれば『あれか』という人もいるかと思います。」とある。コノ作品がショスタコーヴィチによって引用されたということか・・・。
また同サイト同ページには、ウストヴォーリスカヤは「ショスタコーヴィチのプロポーズを『これ以上あなたの影響を受けたくない』と断ってしまった」とある。

・第3曲「ピアノとヴァイオリンのためのデュエット (1964)」
強烈な演奏を強いる作品。
コノ作品は特殊奏法(Vn のコル・レーニョ col legno 弓の毛ではなく棒の部分で弾く。Vn のフラジオレットのような高音。Pf のクラスターのような音など)による《音楽の遊び》にも聞こえる。
だが、コノ作品の激しさが訴えかけるものは何か?←それはベートーヴェン的感情の発露や単なるプライベートな感情の発露でもない。←なぜなら、コノ作品は抽象的だから。←【追加】ある種の抽象画のように。
ウストヴォーリスカヤのコノ作品における特殊奏法の技巧は、はったりではない。ただし、美でもない。
上にも書いた通り、コノ作品には標題がない。
徹底した抽象。←ただし、むかつくような「時代」を受け入れざるを得なかったことに対する怒り、その怒りによる激しさと攻撃性を感じることはできる・・・ソノ攻撃性でリスナーを驚かすこと・・・それさえ為せれば、それで構わないという「怖さ」が、コノ作品にはある。
暴力的で破壊的な側面は、パンクロックみたいだ。←繰り返すが、むかつくような「時代」を受け入れざるを得なかったことに対する攻撃性・・・。
単純な音を繰り返す点は、モートン・フェルドマンに似ている。技巧を凝らす点は、ジョン・ケージに似ている・・・しかし、ウストヴォーリスカヤには「カルチャー」がない。
ウストヴォーリスカヤの「ショスタコーヴィチの影響を受けたくない」という確固たるアイデンティティは「異端」ではない。← ECM とコパチンスカヤが取り上げたくなるようなエンターテインメントもある。
あるいは、マゾヒスティックORサディスティックな快感を満足させる・・・または中島らもの言う『死後の不感無覚』・・・いや、そんな大袈裟なものではない・・・やっぱりコノ音楽はエンターテインメントだ。技巧的奏法が過多であると思えるが、ウストヴォーリスカヤはその奏法に自慰してない・・・コノ音楽が書かれたシチュエーション《ソ連》を前提にすれば彼女の音楽は「前衛」である。が、いま、今日、コノ作品は「過去の前衛」である。ソレを今日の人気ある若きヴァイオリニスト、コパチンスカヤ(1977年モルドバ生まれ。録音当時35〜36才)が演奏するのだから、コノアルバムには、新しさと古さが共存している。
ウストヴォーリスカヤの芸術は「マイナー」であることにこだわる。彼女の芸術は、マイナーすぎて、「前衛芸術のレッテル」をも拒絶する。また、彼女の音楽は単なる反骨精神からなるのではない。
ウストヴォーリスカヤの「ピアノとヴァイオリンのためのデュエット (1964)」は「この世は《秒進分歩》のスピードでだんだん悪くなっている」ことを表していると解釈してもよいか? いや、コノ作品の《解釈》は「考古学上の謎解き」ように難しい。たとえば、むしろ、コノ作品は「究極のオプティミズム」なのかも知れない・・・「ペシミズム、オプティミズム、どちらでも構わない、どちらも似たようなもの!」・・・そういう「怖さ」がコノ作品にはある。ソノ「怖さ」がリスナーの欲求を充足させてくれる。
コノ作品は、消え入るように静かに終わる。

【最後に】

コノ音盤は少しノイズが聞こえるが、ソレはおそらく楽器が発するノイズと思われる。
コノアルバムは録音が良いのも魅力である。

【追加】

共演者、ヒンターホイザーの「ウストヴォーリスカヤ:ピアノ・ソナタ全曲録音」は、他の演奏と聴き比べた結果、ベストだと思う(「ウストヴォーリスカヤ:ピアノ・ソナタ全曲」その2(聴き比べ)参照)。
コノアルバムにおいて、ヒンターホイザーは、美しい演奏を聴かせていると思う。

【2014−11−6 書き忘れ】

コノアルバムにおいて、コパチンスカヤの表現・技巧は卓越している。

【追加】

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Galina Ustvolskaya CD, Import
Patricia Kopatchinskaja (アーティスト) 形式: CD
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コメント

こんにちは。
おお、コパチンスカヤのウストヴォルスカヤとは!
こんなCDが出ていたなんて。
さっそく注文いたしました。
教えていただいてありがとうございます。

コノブログの開設者、KMです

木曽のあばら屋さん、コメントありがとうございます。

私のコノブログは、コメント・トラックバック受信が少ないので、コメント頂けて、うれしいです。

コパチンスカヤが、大御所の(というより中堅の)ヒンターホイザー(1958年生)と共演の「ウストヴォーリスカヤ」。

ヒンターホイザーについては、
「煮ても焼いても食えない作品「ウストヴォーリスカヤ:ピアノ・ソナタ全曲」その2(聴き比べ)」
http://koshiro-m.cocolog-nifty.com/blog/2014/07/post-93a0.html
にて私が書いてますが、「傷がない」
今回のコパチンスカヤとの共演では、やはり「傷がない」
しかし、コパチンスカヤをよくサポートしており、彼自身のプレイも、上記よりも美しく聞こえました。<ピアノの音

コパチンスカヤ(1977年モルドバ生まれ)は、ルーマニア系ですかね? ウィキペディアには「(モルドバは)旧ソビエト連邦を構成していた国家の一つ」「モルドバ人は言語的、文化的にルーマニア人との違いはほとんどなく」とあります。
旧ソ連(サンクトペテルブル)出身の純正ロシア人ウストヴォーリスカヤを、コパチンスカヤ以上に、うまく弾けるヴァイオリニストは、あまりいない(←いたとしても、かなりの大物か超超超名人)<<<というのが私のコパチンスカヤへの評価です。つまり、コパチンスカヤは、ロシアの民族性と、ウストヴォーリスカヤの《マイナー》であることを、ちゃんと会得していると思います。

繰り返します。コパチンスカヤが、やってくれました! バンザ〜イ!

【私の事情】

私は、PCやモバイル環境がない場所に寝泊まり・住んでることが多いので、<==ガールフレンドの家。
ブログの記事や、アマゾンレビューを何度も書き直す(一度書いた文章に加除修正をする。左様な悪い癖がある)。<===記事やレビュー、少しずつしか書けないのです。思いついたことから先に書いています。<==忘れないために。<===その後のことは後回しにして書いています。<===ご注意下さい。
よって、最終稿完成の日付は、最初の日付とギャップあり。<===これもご注意下さい。

以上取り急ぎ。失礼いたします。

P.S. 貴ブログ?(サイト?)後日ゆっくり読ませて下さい!

それから、よかったら、またコメント下さい。<<<コパチンスカヤのウストヴォーリスカヤetc

(つづき、書き忘れ)

1. ウストヴォーリスカヤと、アカデミズム、形式。

2. コパチンスカヤたちのアンサンブル

1について私は「エンターテインメント」という言葉でごまかしました。

2については、コパチンスカヤたちはベストなのか? 100点満点で言えば、90点以上であると思いますが・・・

1、2については、untouchable(触れないまま)が良いのかどうかを含めて、もうちょっと聴いてみたいと思います。

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