« まだ、テンソルがわからない(1)/ダニエル・フライシュ著「物理のためのベクトルとテンソル」の第6章「テンソルの応用」「6.1 慣性テンソル」 | トップページ | 新たに「私の所蔵する全 CDs & SACDs」のリストを作製中(その後) »

2014年9月 2日 (火)

グバイドゥーリナの隠れた名曲「Piano Sonata」

Gubaidulina

Sofia Gubaidulina (b. 1931)
Repentance

Repentance for cello, three guitars and double bass (2008) [21:50]
Wen-Sinn Yang (cello)
Franz Halász (guitar I)
Jacob Kellermann (guitar II)
Lucas Brar (guitar III)
Philipp Stubenrauch (double bass)

Serenade for solo guitar (1960) [2:32]
Franz Halász (guitar)

Piano Sonata (1965) [21:10]
Débora Halász (piano)

Sotto voce for viola, double bass, two guitars (2010-2013) world première recording [23:13]
Hariolf Schlichtig (viola)
Philipp Stubenrauch (double bass)
Jacob Kellermann (guitar I)
Lucas Brar (guitar II)
rec. June 2013, Studio 2, Bayerischer Rundfunk, Munich, Germany
BIS

【収録情報(HMV.co.jp より)】

グバイドゥーリナ:
・悔い改め (2008)〜チェロ、3本のギター、コントラバスのための
・セレナード (1960)〜ギターのための
・ピアノ・ソナタ (1965)
・ソット・ヴォーチェ (2010/3)〜ヴィオラ、コントラバス、2本のギターのための

 フランツ・ハラース(ギター)
 ウェン=シン・ヤン(チェロ)
 デボラ・ハラース(ピアノ)
 ヤコブ・ケレルマン(ギター)
 ルーカス・ブラル(ギター)
 フィリップ・シュトゥーベンラウフ(コントラバス)
 ハリオルフ・シュリヒティヒ(ヴィオラ)

 録音時期:2013年6月
 録音場所:バイエルン放送スタジオ2
 録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)
 SACD Hybrid
 CD STEREO/ SACD STEREO/ SACD 5.0 SURROUND

--

グバイドゥーリナの「ピアノ・ソナタ」。この作品が、いままで、演奏される機会が少なかったのは不思議だ! 結論を先に言えば、《グバイドゥーリナは意外に秀でたピアノ曲の作曲家だった!》

グバイドゥーリナ:ピアノ・ソナタの構成その他について、英語版ウィキペディアに、長い記事が載っているので、それをそのまま転載する。

The Piano Sonata is dedicated to Henrietta Mirvis, a pianist greatly admired by the composer. The work follows the classical formal structure in 3 movements: Allegro (Sonata form), Adagio, and Allegretto. Four motives (pitch sets) are utilized throughout the entire sonata, which also constitute the cyclical elements upon which the rhetoric of the piece is constructed. Each motive is given a particular name: "spring", "struggle", "consolation," and "faith".

There are two elements in the primary thematic complex of the first movement: (1) a "swing" theme, characterized by syncopation and dotted rhythms and (2) a chord progression, juxtaposing minor and major seconds over an ostinato pattern in the left hand. The slower secondary theme introduces a melodic element associated with the ostinato element of the previous theme.

In the development section, these sets are explored melodically, while the dotted rhythm figure gains even more importance. In the recapitulation, the chord progression of the first thematic complex is brought to the higher registers, preparing the coda based on secondary theme cantabile element, which gradually broadens.

The second movement shifts to a different expressive world. A simple ternary form with a cadenza–AB (cadenza) A, the B section represents an acoustic departure as the chromatic figurations in the left hand, originating in section A, are muted.

In the cadenza the performer improvises within a framework given by the composer, inviting a deeper exploration of the secrets of sound. It consists of two alternating elements– open-sounding strings, stroke by fingers, with no pitch determination, and muted articulation of the strings in the bass register—separated by rests marked with fermatas. The third movement is constructed of 7 episodes, in which there is a continuous liberation of energy accumulated during the previous movement.

Musical expression in this work is achieved through a variety of means. Rhythm is a very important element in the construction of the work, articulating a distinct rhetoric, as well as in the development of the musical material. Exploration of a wide range of sounds, within the possibilities of the instrument, involving both traditional and nontraditional methods of sound productions are another important mean.

Some examples of the nontraditional sounds produced are a glissando performed with a bamboo stick on the piano pegs against a cluster performed on the keyboard, placing the bamboo stick on vibrating strings, plucking the strings, glissando along the strings using fingernail, touching the strings creating a muted effect.

Two distinct aspects of the sonata—the driving force and the meditative state—can be seen through the architecture of the work as portraying the image of the cross. The first movement is related to the "horizontal" line, which symbolizes human experience while the second movement reflects the "vertical" line, which represents man's striving for full realization in the Divine. The meeting point of these two lines in music happens at the end of second movement, and that reflects transformation of the human being at crossing this two dimensions. The third movement "celebrates the newly obtained freedom of the spirit".

私は英語をスラスラ読めるわけではないので、上の文章を、ちゃんと読んでない。ただ、

1. この作品が古典的形式をうまく、また、効果的に取り込んでいること。第1楽章はソナタ形式である。
2. 4つのモチーフ(pitch sets?)が全曲に使われていること。それは、循環要素(循環形式)を組み立てている。その要素によって、この作品の修辞法は構成されている。

コノ2点は留意すべきだと思う。グバイドゥーリナの「ピアノ・ソナタ」は論理的に構成されていると思う。そして、前衛と聴きやすさの均衡。静と動、激しい部分と静けさ、複雑と単純、音形・リズムのコントラストと変化交替、演奏法は内部奏法をうまく取り入れている(プリペアドは用いていない)。同曲は、高度な技巧で書かれている(内部奏法じゃないところも難しいし、内部奏法も難しい)。しかし、技巧を誇示した作品ではない。同曲は、様々な「面」を持つ。ジャズ、ロック、ストラヴィンスキー、バーンスタイン、(やや)ミニマム、アメリカ音楽 vs. ロシア音楽(?)。繰り返すが、アメリカ音楽であるジャズとスラブ・ロシア系の宗教または民族音楽。そして、「調性の安定した12音技法(?!)」が聞こえる。
そして何と言っても、特殊奏法(内部奏法)が、主役ではなくて脇役として活躍するのが良い。私は、ジョン・ケージのプリペアド・ピアノによる作品を聴いたことがないが、ケージの場合、特殊奏法は脇役に徹しているのだろうか?

・グバイドゥーリナ:ピアノ・ソナタの構成について(下の動画を参照に。ただし、下の動画はダウンロードするのにかなり時間がかかりますのでご注意下さい! 容量174.8MB)

Sofia Gubaidulina Piano Sonata (1965) Mvt. I: Allegro; Mvt. II: Adagio; Mvt. III: Allegretto
http://koshiro56.la.coocan.jp/blog/Gubaidulina_Piano_Sonata.mov


第1楽章(アレグロ、自由なソナタ形式だと私は思う)

第1楽章の第1小節から12音技法が聞かれるわけではない。そうではなくて第8小節に12音技法が使われている。練習番号1(0'14")を第1のモチーフ、または第1主題と捕らえてもいいと思う。しかし、練習番号1を序奏と捕らえると、練習番号2(0'28")のジャズ主題を第1主題ととっていいだろう(<<すなわち、ジャズ主題に着目した場合。練習番号2までの難解な旋律を提示部への序奏と見た場合。)。
そして、練習番号7(1'22")を第2主題と見てもいいだろうと思う。そして、おそらく、練習番号8(1'48")にて、すぐに展開部に入ると思う。ココで、Dの音が連打される(左手でピアノ線を押さえながら弾かれる)。そのような同音連打は他の楽章にも多用されていて効果的である(つまりソノ同音連打はコノ作品が無調でありながらある種の調性の安定感があることに寄与しているかも。)。
練習番号12(4'06")から再現部か? ココからはジャズっぽさがアクセントになっている。私は、クラシック音楽の作曲家が、ジャズを取り入れた作品をいくつか聞いたことがあるが、ココは、それがとてもうまく行った《場合》の一つだと思う(練習番号12以降の変拍子すなわちラグタイム・ジャズっぽい旋律反復・躍動)。
練習番号18(5'44")にて、コーダに入ったと思ったが違った。練習番号19(6'02")から音程を下げながら、約25小節にわたって、B♭の音が連打される。練習番号22(6'57")にて第2主題が再現され繰り返される(もう一つのモチーフとの対話)。練習番号26から(8'22"。ココからがコーダだろう)、テンポを落とし、重々しい民族音楽的低音に導かれ、最後は高音がAの音を繰り返し第1楽章は静かに終わる。この終わり方は、効果的であり、激しく、複雑で、超絶技巧的な第1楽章の「面」と、素朴で静かな「面」を対比させている。
アタッカで、第2楽章へ。

第2楽章(アダージョ)

内部奏法を多用した不気味な楽章。しかし、技巧に走ることはない。練習番号1番(0'50")から、不気味な半音階的低音(速い走句。多分第1楽章のどれかのモチーフと関係ありそう。)の上に、E♭が連打される。次第に、3分50秒あたりからカデンツァに行く。そのカデンツァでは、「演奏者は即興的に音を鳴らしてもよい」という指示がある。そして、音楽が複雑かつ激しくなって行く。そして、また、E♭が連打によって静けさが回帰し音楽は美しく閉じられる。

第3楽章(アレグレット)

終始激しい。ジャズっぽい。私は、コノ第3楽章が無かったなら、グバイドゥーリナのピアノ・ソナタは、ピアニストにとって挑戦しがいのない音楽になっていたと思う。コノ楽章は、速いテンポにおける技巧が問われる楽章(内部奏法無し)。練習番号9(8'22")の最初の17小節、A♭の連打。そして、クライマックスであるフィニッシュに向かって、再び激しさを増しながら、突き進む。
グバイドゥーリナは、作品の最終楽章に「クライマックスを持ってくる」というベートーヴェンやリストの定石を裏切らなかった。繰り返すが、コノ第3楽章はリスナーに、過去のピアノ・ソナタの名曲を思い出させる。そして、20世紀に(私たちと同時代人に)にそのような曲を書いた作曲家が居たことは、妖怪じみた音楽だけではなく、時には《古典》を聴きたい私を安心させる。1965年において、グバイドゥーリナは、「ソ連邦時代」に迎合して、古典・ロマン的形式に則った作品を書いたのか? いや違う。グバイドゥーリナは《ピアノ・ソナタを書ける人》だったのだ! そう思うと、彼女のファンである私にとって、彼女の「ピアノ・ソナタ」との意外な出会い(発見)は喜びであった。それにしても、この名曲を、今日のヴィルトゥオーゾたちは、何故弾かないんだろう。

・演奏者 Débora Halász について

彼女は、私が上に書いたこの作品の特長、そのままの演奏をしている。良いピアニストに出会えてうれしい。

--

【その他の曲について】

・悔い改め (2008)〜チェロ、3本のギター、コントラバスのための
・セレナード (1960)〜ギターのための
・ソット・ヴォーチェ (2010/3)〜ヴィオラ、コントラバス、2本のギターのための

あとの3曲はいずれも、技巧に走った凡作と言えば、言い過ぎだが、《はったりではない大胆さ、激しさ、凶暴さ》それらがない。いずれも弦楽器によるアンサンブルだが、そのアンサンブルが美しくない(SACDなのに)。その3曲はギターがダメだと思う。すなわち、それらにはグバイドゥーリナの書法は聞こえるものの、これまでに私が聴いたグバイドゥーリナの作品に匹敵する作品はなかった。ギター以外の楽器:チェロ、コントラバスは、それなりにおたけんでいるが、とにかくギターがダメ! ギターが失敗のもとではないか。もともと音量が弱いクラシックギターを特殊奏法するのは失敗していると思う(HMVレビュー参照のこと)。エレキギターを使えば良かったんじゃないか? マジでそう思います。「ソット・ヴォーチェ」は退屈する。
まあ、コノアルバムで、クラシックギターを用いたのは、作曲者に忠実ではある。

このアルバムは、「ピアノ・ソナタ」がなかったら、星2つ。このアルバムは、私にとって、グバイドゥーリナの「ピアノ・ソナタ」の発見にこそ価値がある。その意味において、星4つに値する。

--

【追加】

リーフレットによると:グバイドゥーリナのピアノ曲は比較的少ないが、貧しく憂鬱な彼女の少女時代、両親の農家にあったピアノは、彼女にとって「唯一の光だった」と彼女は思い述べている。グバイドゥーリナのピアノへの愛着は思いのほか強かったようだ。そうでなければ、彼女の力作・傑作である『ピアノ・ソナタ』は生まれなかっただろうと、私は思う。

--

【参考映像】


Sofia Gubaidulina Piano Sonata Mvt. I: Allegro- Ivana Cojbasic, piano



Sofia Gubaidulina, Piano Sonata Movement I
Ally Costello's Senior Recital at Schwartz Center, Emory University, April 6th, 2013.


私は、下の Ally Costello という人の演奏の方が分かりやすくていいと思う。

« まだ、テンソルがわからない(1)/ダニエル・フライシュ著「物理のためのベクトルとテンソル」の第6章「テンソルの応用」「6.1 慣性テンソル」 | トップページ | 新たに「私の所蔵する全 CDs & SACDs」のリストを作製中(その後) »

グバイドゥーリナ」カテゴリの記事

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/276661/57256698

この記事へのトラックバック一覧です: グバイドゥーリナの隠れた名曲「Piano Sonata」:

« まだ、テンソルがわからない(1)/ダニエル・フライシュ著「物理のためのベクトルとテンソル」の第6章「テンソルの応用」「6.1 慣性テンソル」 | トップページ | 新たに「私の所蔵する全 CDs & SACDs」のリストを作製中(その後) »

2017年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

カテゴリー

無料ブログはココログ