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2011年12月21日 (水)

アイヴズ作曲「ピアノ・ソナタ 第2番」の決定盤を求めて(4)

Ives_pf_sonata_2_1_00_2
Copyright 1947 by Associated Music Publishers, Inc., New York

作品について

・第1楽章「エマーソン」

この楽章は自由な形式であり古典的なソナタ形式ではないと思うが、あえてソナタ形式に例えると「展開部」に入ると思われる楽想がある(後述)。

冒頭、下降音型(譜例1、midi)と上昇音形(譜例2、midi)が重ねられて奏される。

Ives_pf_sonata_2_1_01
譜例1

Ives_pf_sonata_2_1_02
譜例2

Ives_pf_sonata_2_1_02_2
(譜例1)+(譜例2)

譜例1と上譜例2は第1楽章、および、このソナタ全体が、取っ付きにくく難解な音楽であるという印象をリスナーに与えると思う。しかし、譜例1、譜例2は、第1楽章において支配的な音形ではない。

スコアにはメトロノームによるテンポ指示はない。アイヴズは彼の注釈の中で「演奏者はその日の気分に応じてテンポを決めてもよいが、一応、第1楽章の開始のテンポは、四分音符=72−80ぐらいでやってくれ」というようなことを述べている。

下記譜例3(midi)の付点の音形が第1楽章において支配的である(譜例3は最後までしつこく何度も現れる。第1楽章の終わり近くオプションのヴィオラ・パートの部分においても現れる)。

Ives_pf_sonata_2_1_03
譜例3

このソナタ全体を統一する「運命の動機」は譜例3の前に現れるが、しかし、完全な形で奏されるのは譜例3の後である(左手にて。譜例4、midi)。第1楽章は「運命の動機」によって統一され「運命の動機」によって閉じられる。

Ives_pf_sonata_2_1_04
譜例4

ちなみに、この作品には基本的に小節線がない(上記画像参照)。したがって音楽の流れを小節数で示すことができず、譜例の音形がどの辺りに現れるのかを言い表すのが難しい。ご容赦下さい。

譜例4の「運命の動機」は「エイモス・ブロンソン・オールコットとルイーザ・メイ・オールコット父娘」を扱った第3楽章「オールコッツ(The Alcotts)」のための動機であることが後で分かる。すなわち「運命の動機」は、第3楽章「オールコッツ」の主題であり「オールコッツ」において最も美しく、かつ最も効果的に歌われる。

「運命の動機」と譜例3を中心に音楽が重層的に展開された後、一時的に明快な付点のパッセージが現れる(譜例5、midi)が、再び複雑な音楽が経過する。

Ives_pf_sonata_2_1_08
譜例5

この楽章は、複雑な語法で書かれてあり、音楽が多層的重層的であり、音符が幾重にも重ねられ、グロテスクであると言ってもいいほどだ。繰り返すが、そもそも、譜例1の下降音型と譜例2の上昇音形は、グロテスクで難解な印象をリスナーに与えると思う。しかし、私の主観では、この第1楽章は、演奏においてもリスニングにおいても、複雑な音楽の要素がジグソーパズルのようにきれいに組み合わされるべきであると思う。

ミステリアスな楽想がめまぐるしく展開された後、複雑な楽想が一段落するのは、譜例6(midi)の出現によってである(カリッシュ盤の4分48秒あたり)。

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譜例6

Ives_pf_sonata_2_1_05_2
譜例6再掲(詳細)(midi

シンプルで穏やかな旋律(譜例6)が、第1楽章において初めて現れるまでにかなり時間がかかる(譜例6は普通のソナタ形式で言えば第2主題に当ると思う)【注1】。そして譜例6は「運命の動機」と同じぐらい第1楽章において支配的である。

その後、音楽は再び激しさを帯び、カリッシュ盤の6分26秒あたりで、ペダルをリリースする指示があるところにて楽想に変化が見られ、展開部に入るように思える。だが、明らかに楽想が変化するのは、その後、譜例7(midi)が奏されるところである(アイヴズは、譜例7を詩的であると注釈に書いている。すなわち、譜例7から音楽が散文から韻文に移行するということをアイヴズは示唆している)。

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譜例7

そのあと、しばらくは、譜例7を中心に音楽が経過する。そして、次に、落ち着いた美しい叙情的な楽想に至る(譜例8、midi)。

Ives_pf_sonata_2_1_07
譜例8

譜例8で、この楽章の複雑さは減じる。この楽章は「混沌の部分」だけでなく「幻想的で美しい部分」を持つ。すなわち、第1楽章は狂乱から次第に美と安寧に向かうのである。そのことを私は強調したい。

「アイヴズのピアノ・ソナタ 第2番は第2楽章では14と3/4インチの板で鍵盤を同時に押す、トーン・クラスターが使用される怪物のような作品である」という先入観は捨てた方がよい。

カリッシュ盤の10分22秒あたり(2回のターンの後)で、短いフーガ様の音楽(譜例6に基づくフーガ)で再び音楽は活気づく。

そのあと、譜例6の穏やかな楽想と複雑で激しい音楽を経過。

カリッシュ盤の12分25秒あたりで、譜例6がシンプルに奏される。そこを再現部と見てもいいのだが、私の主観では、12分25秒以降、音楽は一気に完結に向う。過去の音楽は再現しない。この楽章に再現部はないと思う。繰り返すが、この楽章は自由な形式であり古典的なソナタ形式ではない。

カリッシュ盤の12分25秒(譜例6がシンプルに奏される箇所)から第1楽章が閉じられるまでに、アイヴズは「これでもか」と言わんばかりに、さらなる緻密な作曲技法を駆使している【注2】

そして、第1楽章の最後の音における静けさ。リスナーは精神の昇華を体験するであろう。

【注1】実は、譜例6は「カリッシュ盤の4分48秒」に登場する前に、すでに登場する。

【追記】本当に、このピアノ・ソナタの良さを知るためには、スコアを買ってしまった方が良いかも知れない。

sheetmusicplus.com へのリンク
Ives: Piano Sonata No. 2 (2nd Ed.) Concord, Mass 1840-60

【2011年12月27日 訂正】
譜例1、譜例2は、第1楽章において支配的な音形ではないと書いたが、それらは、隠れているのでわかりにくいが第1楽章においてやはり重要なモチーフであるようだ。

【2011年12月29日 追加・注2】
カリッシュ盤13分02秒に、譜例7の一部が再現する。

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