« チャールズ・アイヴズ作曲 ヴァイオリン・ソナタ聴き比べ(1) | トップページ | チャールズ・アイヴズ作曲 ヴァイオリン・ソナタ聴き比べ(3) »

2011年11月23日 (水)

チャールズ・アイヴズ作曲 ヴァイオリン・ソナタ聴き比べ(2)

Fulkerson
Gregory Fulkerson violin Robert Shannon piano 1989 年録音

Schneeberger
Hansheinz Schneeberger violin Daniel Cholette piano 1995 年録音

Thompson
カート・トンプソン、ロドニー・ウォーターズ
Curt Thompson violin Rodney Waters piano 1998 年録音

Ives
ヒラリー・ハーン、ヴァレンティーナ・リシッツァ
Hilary Hahn violin Valentina Lisitsa piano 2010 年録音

演奏者に難行苦行を強いる複雑怪奇なリズム進行、一方では誰の耳にもわかりやすい、賛美歌やフォークソングの引用の洪水と、4曲のヴァイオリン・ソナタも、他のアイヴズ作品と同様の語法に貫かれています。聴くものにとってもなかなか一筋縄ではない面もある作品たちですが、親しみやすさという点では、演奏時間もコンパクトにまとまった第4番「キャンプの集いの子供の日」が一番でしょうか。快活、簡潔な第1楽章、深く瞑想的、哲学的で美しい第2楽章、そして実は賛美歌でもある「たんたんたぬき」のメロディーが、どことなくひねくれた装いで奏される第3楽章と、各楽章ともわかりやすく性格的です。(アイヴズ:ヴァイオリン・ソナタ集/カート・トンプソン、ロドニー・ウォーターズ NAXOS 盤の帯より)

上記は、半分当っているが半分当っていない。たとえば、第3ソナタは、複雑で混沌としているが、論理的・精巧に書かれた作品であると私は思う。

アイヴズ:第3ソナタのスコア(Edited by Sol Babitz and Ingolf Dahl)を買って、上記4組の演奏者による「第3ソナタ」を聴き比べてみた。その結果、ヒラリー・ハーン、ヴァレンティーナ・リシッツァの演奏が、私は断然気に入った。

--

第3ソナタ第1楽章は4つのヴァース(Verse)すなわち4つの「節」からなっている。第1楽章はある種のバラッドのような形式をしている。その形式は論理的であり、単体の作品のように完結している。4つの節はいずれも、ピアノの分散和音で始まる(譜例1、midi)。

Ives_vn_sonata_3_1_01
譜例1

第2節以降、開始の分散和音は、3度下がる(譜例2、midi)。

Ives_vn_sonata_3_1_17
譜例2

各節は下記の旋律(譜例3、midi)で始まる「リフレイン(Refrain)」で閉じる。譜例3の旋律の出典は私には分からない。

Ives_vn_sonata_3_1_15
譜例3

4つのリフレインはいずれもラルゴで終わるが、最初の3つは未解決のまま次の節に続く。最後のリフレインは、イ長調で解決する。

第1楽章は4つの「節」すなわち「Adagio」「Andante」「Allegretto」「Adagio」からなる。各節はそれぞれ、テンポを自在に変えながら奏される【注】。第1楽章の構造をまとめると下記のようになる(カッコ内は、ヒラリー・ハーン盤の開始時間)。

Verse 1 (Adagio) - Refrain
Verse 2 (Andante) - Refrain [3' 45 -]
Verse 3 (Allegretto) - Refrain [7' 25 -]
Verse 4 (Adagio) - Refrain [9' 17 -]

--

第1楽章第1節の(ヒラリー・ハーン盤で)1分47秒あたりで、「a tempo」にて、ピアノにラベルの「水の戯れ」のような音形の伴奏が現れる。それは、2分07秒にも現れる(譜例4、midi)。

Ives_vn_sonata_3_1_10
譜例4

米国アマゾンのカスタマーレビューに「Hahn's tone is dry and thin; her bowing is agile but inexpressive.(ハーンの音は乾いていて細い。機敏な弓使いだが、無表情)」と書いてある。私もそう思う。その音色は大音量で聴くとうるさい。また音色が美しくない。艶やかではない。そのうるさい音色の理由は「録音機器が、ヴァレンティーナ・リシッツァが弾くベーゼンドルファー・インペリアルの音を録るためにチューニングされ、ヴァイオリンのピッチに合わせられていなかったから」と私は推測していたが、実は、そうではないようだ(ちなみに、このアルバムは、ハーン自身が共同でプロデュースしている)。

ハーンのアイヴズは、彼女の前録音、ヒグドン/チャイコフスキーに比べると装飾を排した奏法だと思う。「細くて乾いた音色」は意図的だと思う。細かいヴィブラートが、かえってうるさい。そして、その細くて乾いた音が、アイヴズの狂乱の音楽に合っていると私は思う。

第3ソナタ第1楽章「第3節」Allegretto は8分の6拍子であり、ジグ風であり、スケルツォ的であり、そこにおいてすでに、ハーンとリシッツァは少し挑発的である。さらに、第2楽章「Allegro」において、二人は水を得た魚のようである。それらの曲芸的演奏が彼女らの演奏の大きな魅力だ。しかし、それらは彼女らの演奏の魅力の一つにすぎない。

すなわち、ハーンとリシッツァによる「アイヴズ:ヴァイオリン・ソナタ集」の魅力はテンポが速いこと、激しいこと、快活であることだけではない。上記「水の戯れ」のような音形は、第1楽章の10分57秒あたりでも聴かれる。リシッツァはその音形を美しく弾いている。また、彼女が弾くベーゼンドルファー・インペリアルは、ピアノ・パートの低音の声部を、よく鳴らしていると思う。アイヴズのヴァイオリン・ソナタのピアノ・パートは複雑な書法で書かれているが、リシッツァはそれを余裕をもって弾いているように聞こえる。

第3ソナタの最も難解な第3楽章においても彼女らは、うまいと思う。

【注】私はスコアを買う前、ヒラリー・ハーン盤の CD のリーフレットに第3ソナタの第1楽章は「Adagio - Andante - Allegretto - Adagio」と記載されてあるのを見て、その意味が分からなかった。私は「Adagio - Andante - Allegretto - Adagio」の塊(かたまり)が4回演奏されるのかと思っていた。しかし、そうではなかった。
(続く)

« チャールズ・アイヴズ作曲 ヴァイオリン・ソナタ聴き比べ(1) | トップページ | チャールズ・アイヴズ作曲 ヴァイオリン・ソナタ聴き比べ(3) »

アイヴズ, チャールズ」カテゴリの記事

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/276661/43114199

この記事へのトラックバック一覧です: チャールズ・アイヴズ作曲 ヴァイオリン・ソナタ聴き比べ(2):

« チャールズ・アイヴズ作曲 ヴァイオリン・ソナタ聴き比べ(1) | トップページ | チャールズ・アイヴズ作曲 ヴァイオリン・ソナタ聴き比べ(3) »

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

最近の記事

カテゴリー

無料ブログはココログ