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2011年8月12日 (金)

スザンナ・マルッキ指揮 ミカエル・ジャレル作曲『カッサンドル』(1)

Cassandre

Michael Jarrell (*1958 )
Cassandre (1994)
a spoken opera for ensemble and actress

1. Apollon te crache dans la bouche... [5' 02]
2. Hécube, ma mère... {3' 24]
3. Le cyprès... [3' 39]
4. Vers le soir... [2' 06]
5. Quand je remonte... [3' 04]
6. Premier interlude instrumental {2' 26]
7. Polyxène, ma soeur [3' 00]
8. C'était la veille du départ... [6' 27]
9. Remarquez bien... [1' 35]
10. Deuxième interlude instrumental [1' 40]
11. C'était une journée pareille... [2' 34]
12. Je vis mon frère Hector... [3' 55]
13. Enée vint à la nouvelle lune... [2' 09]
14. Depuis qu'en ce lieu... [5' 18]
15. L'effondrement vint vite... [2' 49]
16. Oui. Ce fut ainsi... [4' 16]
TT: 53' 26

Astrid Bas, actress
Susanna Mälkki, conductor
Ensemble intercontemporain / IRCAM
Recorded: 2008
KAIROS

ミカエル・ジャレル:『カッサンドル』 (1994)〜アンサンブルと女優のための朗読オペラ
アストリッド・バス(朗読)
アンサンブル・アンテルコンタンポラン
スザンナ・マルッキ(指揮)
録音:2008年

【原作】

Kassandra

カッサンドラ (クリスタ・ヴォルフ選集) 中込啓子訳 恒文社

【HMV.co.jp へのリンク】
ミカエル・ジャレル (1958 - ):『カッサンドル』マルッキ&アンサンブル・アンテルコンタンポラン

【対訳】
ミカエル・ジャレル作曲 アンサンブルと女優のための朗読オペラ『カッサンドル』(1994) 対訳

これは、今年購入した CD の中で、一番気に入った。このレーベルの音盤は、どれも録音が良い。アストリッド・バス(朗読)、スザンナ・マルッキ(指揮)がうまい。それから、この作品は原作(クリスタ・ヴォルフ作、小説「カッサンドラ」Christa Wolf Kassandra, 1983)が良い。

カッサンドラは、トロイアの王女である(ウィキペディア参照のこと、カッサンドラー、カサンドラ)。彼女は、アポロンから予言の能力を授けられるが、彼女がアポロンの愛を拒んだので、その予言は誰にも信じられないという条件が付けられた。したがって、彼女は、トロイアが滅亡する過程において、不吉な前兆をすべて正しく予言するが、誰にも信じられなかった。

カッサンドラ (クリスタ・ヴォルフ選集) 恒文社版の訳者、中込啓子さんの解説:

本書クリスタ・ヴォルフの『カッサンドラ』では、カッサンドラは、ギリシャ人に滅ぼされた直後に、トロイアから、ギリシャ方の総大将アガメムノンの捕虜になって、船旅をへてギリシャ本土のアガメムノンの国ミュケナイに連れてこられる。カッサンドラは、物語の始めから終わりまで、ミュケナイの獅子門前にとまっている馬車の中にいる。予見する能力のあるカッサンドラには、アガメムノンが獅子門をくぐり、緋色の絨毯を敷きつめた道を歩いていったあとに、宮殿の中で殺害されるとわかっている。そして、あと数時間で自分自身もアガメムノンの館で殺されるとわかっている。(「カッサンドラ」中込啓子訳 230ページより)

この小説は、ミュケナイの獅子門前で自分の死を待つカッサンドラによって数時間に語られた回想・述懐からなる。英語版ウィキペディアには、カッサンドラの語りは「意識の流れ(stream-of-consciousness)」で語られると書いてあるが、この小説は、同じ古代ギリシャの叙事詩を題材にしたジェイムズ・ジョイスの「ユリシーズ」に比べると、難解ではないと私は思った。ただ、この小説において難しいのは文体である。平たく言えば、この小説では「直接話法」と「間接話法」が明確ではない。

1. 彼女は「私は彼を愛している」と言った(直接話法)
2. 彼女は、彼女は私を愛していると言った(間接話法)

1 と 2 が同じであるとする。もし、1 の引用府(カッコ)を消すと

彼女は私は彼を愛していると言った

となり、意味が正確に通じなくなる。

この小説「カッサンドラ」では、直接話法の引用府がない。また「誰が言ったのか」が省略されている箇所が多い。

【具体例】
Die Königin, sagte der Vater mir in einer unserer vertrauten Stunden, Hekabe herrscht nur über solche, die beherrschbar sind. Sie liebt die Unbeherschbaren. - Mit einem Schlag sah ich den Vater in anderem Licht. Hekabe liebte ihn doch? Zwifellos. Also war er unbeherrscht?

「王妃はね」と、父は(私と二人だけで)互いにくつろいでいたときに「ヘカベーは意のままにできる者だけを支配する。ヘカベーは、意のままにならない者たちを愛す」と言った。たちまち、私は父の別の側面を見た。ヘカベーは父を愛していたのか? それは疑いない。ならば、父は意のままにならない人だったのか?

この小説においては、登場人物の発言に対して、カッサンドラの自問自答や疑問が次々に飛び出す。(そもそも、「ヘカベーは意のままにできる者だけを支配する。ヘカベーは、意のままにならない者たちを愛す」という言葉が突飛であるが)「たちまち、私は父の別の側面を見た」という彼女の思いは、発言者、プリアモスの言葉に対する彼女の分析であり、「ヘカベーは父を愛していたのか? それは疑いない」は、彼女の自問自答であり、「父は意のままにならない人だったのか?」は、父親の発言に投げかけらる疑問である。

この文章を別の文章で書けば、

「王妃はね」と、父は(私と二人だけで)互いにくつろいでいたときに「ヘカベーは意のままにできる者だけを支配する。ヘカベーは、意のままにならない者たちを愛す」と言った。それは私にとって意外な言葉であった。だから父の言葉に、私は父の別の側面を見る思いがした。私が知る限り、ヘカベーが父を愛していたのは、疑いない。そうであれば、父は意のままにならない人だったということになる

つまり・・・カッサンドラの母ヘカベーは、確実に支配できる者だけを支配した。彼女は自分の支配欲をコントロールし満たしていた。そんなヘカベーから、父プリアモスは決して支配されることなく、しかも、愛されていた。プリアモスは、愛されてはいたが、決してヘカベーに支配されていなかった・・・愛と支配、その二つをあえて結びつけて強調し、自分のヘカベーに対する優位性をほのめかすプリアモス。そんなプリアモスに、カッサンドラは彼の別の側面を、ある日突然見た・・・

カッサンドラは、こう言いたかったのではないかと、読者は推測し補足しながら読まなければならない。実は、この小説を読み進めていくと、上記のプリアモスの発言は真実であることが見えてくる。しかし、読者は、それが見えてくるまでは、カッサンドラの語りは真実とずれがあるのではないかという留保を強いられると思う。この小説におけるあやふやな話法は、文体の問題にとどまらないと私は思う

【このエントリーは、http://koshiro-m.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/post-8642.html に続く】

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