« 東日本大震災(細野大臣 除染のモデル事業が行われているヒマワリ畑を視察/除染の政府職員増員を) | トップページ | スザンナ・マルッキ指揮 ミカエル・ジャレル作曲『カッサンドル』(3) »

2011年8月14日 (日)

スザンナ・マルッキ指揮 ミカエル・ジャレル作曲『カッサンドル』(2)

【このエントリーは、http://koshiro-m.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/post-d876.html の続き】

==

Cassandre

Michael Jarrell (*1958 )
Cassandre (1994)
a spoken opera for ensemble and actress

1. Apollon te crache dans la bouche... [5' 02]
2. Hécube, ma mère... [3' 24]
3. Le cyprès... [3' 39]
4. Vers le soir... [2' 06]
5. Quand je remonte... [3' 04]
6. Premier interlude instrumental [2' 26]
7. Polyxène, ma soeur [3' 00]
8. C'était la veille du départ... [6' 27]
9. Remarquez bien... [1' 35]
10. Deuxième interlude instrumental [1' 40]
11. C'était une journée pareille... [2' 34]
12. Je vis mon frère Hector... [3' 55]
13. Enée vint à la nouvelle lune... [2' 09]
14. Depuis qu'en ce lieu... [5' 18]
15. L'effondrement vint vite... [2' 49]
16. Oui. Ce fut ainsi... [4' 16]
TT: 53' 26

Astrid Bas, actress
Susanna Mälkki, conductor
Ensemble intercontemporain / IRCAM
Recorded: 2008
KAIROS

ミカエル・ジャレル:『カッサンドル』(1994)〜アンサンブルと女優のための朗読オペラ
アストリッド・バス(朗読)
アンサンブル・アンテルコンタンポラン
スザンナ・マルッキ(指揮)
録音:2008年

【原作】

Kassandra

カッサンドラ (クリスタ・ヴォルフ選集) 中込啓子訳 恒文社

【対訳】
ミカエル・ジャレル作曲 アンサンブルと女優のための朗読オペラ『カッサンドル』(1994) 対訳

--

(小説「カッサンドラ」の発想が興味深いのは)男が物語る戦争物語、すなわち「英雄歌謡」ではなく、「かぼそい傍流」である女の戦争物語を示唆したことだ。男は、戦争において勝ちいくさしか語らない。何故なら、敗けた国の男は死んでしまっているから。一方、敗けいくさを語るのは敗けた国の女たちでしかない。三枝和子さんの解説 『カッサンドラ』 --- 語り直された神話 カッサンドラ (クリスタ・ヴォルフ選集) 中込啓子訳 恒文社 248ページより

クリスタ・ヴォルフの小説「カッサンドラ」は、女性の視線から見たトロイア戦争である。

この小説の分量は、ドイツ語の原書(Kassandra Suhrkamp Verlag)で、179 ページ(ペーパーバック)であり、小説としての長さは中編小説である。この小説が面白くなるのは、カッサンドラが精神錯乱を起こし、自室に閉じ込められる場面からである(逆から言えば、この小説は、その場面の前までは、はっきり言って退屈する)。パリスが、ヘレネーの夫、スパルタのメネラオスを前に、ヘレネーをスパルタから奪うことを宣言したあと、カッサンドラは、身の毛もよだつ叫び声を上げ、精神錯乱の発作を起こす。

C'est alors qu'un voile s'abattit sur ma pensée. L'abîme s'ouvrit. Ténèbres. Je m'y engouffrai. Paraît-il que j'éructais d'une manière effrayante, que l'écume jaillissait de ma bouche. Sur un signe de ma mère les gardes m'ont saisie aux aisselles et m'ont traînée hors de la salle. On m'a enfermée dans ma chambre.

それから、私の思考に帳が降りた。深淵が口を開けた。暗闇。私は落ちた。私の口は泡を吹いていたという。母の合図で、警護の者たちが、私の脇をつかみ、大広間から外に引っぱり出した。私は自分の部屋に閉じ込められたそうだ。

その場面は、原書では(179 ページ中)79ページにある。上記、マルッキ指揮による CD 盤では、その場面は、(16トラック中)第8トラックの3分10秒にて聞かれる。原書79ページは、小説のほぼ半ばにさしかかる場所である。上記 CD 盤にて、当該箇所が聞かれるのは、全曲のほぼ折返し地点である。

その場面で、カッサンドラは、パリスのヘレネー誘惑・誘拐がトロイアに苦難をもたらすことを、トロイヤ人に知らしめる。カッサンドラの叫び:

Malheur, criait-elle. Malheur. Ne laissez pas partir le vaisseau!
「ああ、何という事だ」私の声は叫ぶ「ああ、何という事だ。決して船を出してはなりません!」

は、トロイアの王家とその家臣たちにとって事件であった。カッサンドラのトロイヤ戦争への関与が始まる。

ここに私は、戦争が、男社会形成・男社会の価値尺度のつくられていくプロセスであるのを見るのと同時に、女の抵抗が --- つまり、カッサンドラの抵抗が、戦争への抵抗であることを見る。それをヴォルフは描いた:

ギリシャ神話は、このトロイア戦争を物語ったホメーロスの『イーリアス』と『オデュッセイアー』のなかに、はじめて文学として登場する。ここでは、戦争の物語が直ちに男社会形成の物語として、男社会の価値尺度のつくられていくプロセスを私たちに明らかにする。ヴォルフはまさにこの場所に立って、ホメーロスではない、女のトロイア戦争を書こうとした。そのことによって、男社会成立の原点に立って、女の言葉で語ろうとした。女ホメーロスの出現である。三枝和子さんの解説 『カッサンドラ』 --- 語り直された神話 カッサンドラ (クリスタ・ヴォルフ選集) 中込啓子訳 恒文社 247ページより

しかし、私はまた、カッサンドラが本当の戦争のプロセスを知ることはなかったことをも、ヴォルフは書いたと思う。戦争のプロセスは、カッサンドラの内部にも(彼女は自尊心によってプリアモスやパリスに抵抗した)、外部にもあった(ポリュクセネの破滅を阻止できなかった)。彼女は、戦争にどう関わっていけばいいのか、分らなかった。
彼女は予言することはできた。

しかし、

mon ròle c'était de dire non.
「いやだ」と言うことが私の定めだった

彼女は予言者であったが、自分がいかに行動すべきかは知り得なかった。

征服された一族の女奴隷たちには、相も変わらず勝利者側の繁殖力を増進していかざるを得ないでないか。わたしはそれを知らなかったのか?(中略)すべてのトロイアの女性たちを(中略)われわれ一門の死に巻き込む以外に何もできなかったというのは、王家の娘(カッサンドラ)の思い上がりなのだろうか?(「カッサンドラ」本文 28ページ 中込啓子訳より)

戦争の勝利者は、敗戦国の女を得ることによって、さらに繁殖力を増す。カッサンドラは、自分はそれを知らなかったのか、と自問する。そのような問いを繰り返しながら、カッサンドラは、「戦争」と「国家の滅亡」の隠れた理由と真実を学習する。それらは、21世紀を生きる私たちにとっての指針かも知れない。

ちなみに、ドイツ語版ウィキペディアでは、登場人物と旧東ドイツとを下記のように関係づけている

Eumelos → Sicherheitsdienst / Staatssicherheit (Stasi) 東ドイツ (ドイツ民主共和国)の秘密警察・諜報機関である国家保安省
Priamos → Staatsapparat 国家機関
Hekabe → Partei (SED) ドイツ社会主義統一党
Marpessa → arbeitende Masse 労働者階級である一般大衆
Arisbe → Frauenbewegung 女性運動

【このエントリーは、http://koshiro-m.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/post-bdfa.html に続く】

« 東日本大震災(細野大臣 除染のモデル事業が行われているヒマワリ畑を視察/除染の政府職員増員を) | トップページ | スザンナ・マルッキ指揮 ミカエル・ジャレル作曲『カッサンドル』(3) »

ジャレル, ミカエル」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/276661/41196778

この記事へのトラックバック一覧です: スザンナ・マルッキ指揮 ミカエル・ジャレル作曲『カッサンドル』(2):

« 東日本大震災(細野大臣 除染のモデル事業が行われているヒマワリ畑を視察/除染の政府職員増員を) | トップページ | スザンナ・マルッキ指揮 ミカエル・ジャレル作曲『カッサンドル』(3) »

2017年4月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            

最近の記事

カテゴリー

無料ブログはココログ