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2011年5月 6日 (金)

クルターグの「カフカ断章」改訳

「カフカ断章」ユリアーネ・バンゼ ECM 国内盤に付いている佐藤みどり氏の訳が手に入ったので、以下に改訳します(赤の部分が佐藤みどり氏訳を参考にした改訳)。

第1部
1 よいことは足並みが揃う

よいことは足並みが揃う。それに気付かずに、他の人々はそのまわりを踊る。時の踊りである。

2 秋の道のように
秋の道のように、掃いたとたんに枯葉が覆ってしまう。

3 隠れ家
隠れ家は数えきれないほどあるが、救いは一つしかない。しかし、救われる見込みは隠れ家と同数だ。

4 不安だ

5 子守歌 I
あなたの外套で子どもを包んでください。高貴な夢よ。

6 もう二度と(放逐)
もう二度と、もう二度と、お前は街に戻らない。もう二度とあの大きな鐘はお前の上に鳴ることはない。

7 「しかし彼は私に問うのをやめないだろう」
「しかし彼は私に問うのをやめないだろう」
という文章から「ああ」という語が分離してボールのように飛んで行った。牧場の上を。

8 誰かがわたしの服を引っ張った
誰かがわたしの服を引っ張った。しかし、わたしはそれを振り払った。

9 お針子さんたち
土砂降りの雨の中のお針子さんたち。

10 駅の風景
列車が通過するとき、それを見る人々はこわばる。

11 1910 年 7 月 19 日 日曜日(子守歌 II )
眠って、起きて、眠って、起きて、みじめな生活。

12 わたしの耳
私の耳は触るとみずみずしく、異様に大きく、冷たく、湿っぽく、木の葉のようだ。

13 かつてわたしは脚を骨折した
かつてわたしは脚を骨折した。それはわたしの人生で一番素晴らしい経験だった。

14 鎧をまとう
一瞬、わたしは自分が、鎧をまとったと感じた。

15 二つの散歩用ステッキ
バルザックのステッキを握ると、わたしはすべての障害を打ち砕いた。
わたしのステッキを握ると、すべての障害がわたしを打ち砕く。
「すべて」である点は共通している。

16 後戻りできない
或る地点からは、もはや後戻りできない。
その地点は到達されなければならない。

17 プライド(1910年11月15日、10時)
私は自分を疲れさせないようにしよう。私は私の小説の中に跳び込もう。たとえ、そのために、私の顔が切り裂かれても。(たとえそれが私の威信を傷つけようとも)

18 花は夢見るようにうなだれていた
花はその丈高い茎の上で夢見るようにうなだれていた。
たそがれがそれを包んでいた。

19 なんでもないことだ
なんでもないことだ。なんでもないことだよ。

第2部
20 真実の道

真実の道は、高いところに張られている綱の上ではなく、地上すれすれの綱の上を進む。その道は、歩かれるためにあるのではなく、むしろ人をつまずかせるためにある。それが定めのようだ。

第3部
21 持つ? 在る?

持てるものはない。ただ在るだけだ。窒息死を希う(こいねがう)存在が在るだけだ。

22 罰としてのコイトス(性交)
一つになることの幸福の罰としてのコイトス。

23 わたしの要塞
わたしの監獄の独房 --- わたしの要塞。

24 私は汚れている、ミレーナ・・・
私は汚れている。ミレーナ。とてつもなく汚れている。だから、私は純潔について、こんなにうるさく言うのだ。地獄の底にいる人々ほど純潔な歌を歌う人はいない。彼らの歌こそ天使の歌なのだ。
【注】ミレーナは、カフカの恋人。

25 みじめな生活(ドゥーブル、くりかえしまたは変奏)
眠って、起きて、眠って、起きて、みじめな生活。

26 閉鎖的集団
閉鎖的集団は純粋である。

27 目的、道、ためらい
目的地は在る。しかし道がない。仮に道があるとしても、それはためらい以外の何ものでもない。

28 とても固く
とても固く手が石を握る。だが手が石を固く握るのは、その石をより遠くへ投げ飛ばすためだ。しかし、どれほど遠くに石を投げ飛ばしても、そこへと道は続いている。

29 不快にユダヤ的な
お前と世界の闘争にあって、お前は世界に加勢しなさい。

30 隠れ家(ドゥーブル)
隠れ家は数えきれないほどあるが、救いは一つしかない。しかし、救われる見込みは隠れ家と同数だ。

31 驚嘆して私たちはその大きな馬を見た
驚嘆して私たちはその大きな馬を見た。その馬は、私たちの部屋の屋根を破った。その巨大なシルエットをたどって曇った空は、弱々しく流れ、馬のたてがみはサラサラと風になびいた。

32 路面電車の中の光景
踊子エドゥアルドヴァは音楽愛好家でもある。彼女は、よく路面電車に乗る。二人のヴァイオリニストと同伴だ。彼女は、その二人にしばしば伴奏させる。なぜなら電車の中でダンスは禁じられてはいない。ただし演技が良くて乗客を喜ばせ無料ならばという条件付きだ。つまり、あとで寄付金が集められなければという条件付きである。もっとも、ダンスが始まる際に、乗客は皆、少しびっくりする。そして、しばらくの間、それは場所柄をわきまえない行為だとみなされる。しかし、静かな路地をフルスピードで電車が走るとき、強い風が流れるとき、彼女の踊るダンスはすてきだ。

第4部
33 遅過ぎる(1913年10月22日)

遅過ぎる。甘美な悲しみと甘美な愛。小舟の中で彼女は微笑む。それは、あまりにも美しい。愛とは、いつもただ死を待ちこがれて生きることだ。

34 長い物語
私は少女の目をまっすぐに見る。それはキスの嵐を伴う長い恋の物語であった。私は放埒に生きている。

35 ロベルト・クラインを悼んで
猟犬はまだ庭にいる。獲物は逃げられないだろう。どんなに森を駆け巡ろうとも。

36 一冊の古いノートブックから
いまや夕暮れだ。私は朝の6時から勉学に励んだ。気がつけば、しばらく前から、私の左手は右手に同情して、指を絡ませて右手を握っていた。

37 レパード(豹)たち
レパード(豹)たちが、寺院に侵入し、聖水を飲み干す。それは、何度も繰り返されるので、結局、人々は、それを予測することができ、そして、それは儀式の一部となるだろう。

38 ヨアニス・ピリンツキーを悼んで
わたしは本来、物語ることができない。いや、話すことさえできない。わたしが物語るとき、わたしはたいてい、小さい子どもが最初に歩く時のような気持ちになる。

39 ふたたび、ふたたび
ふたたび、ふたたび、遠くへ追放された、遠くへ追放された。山々、砂漠、広大な土地をさすらわなければならない。

40 目もあやな月夜
目もあやな月夜、鳥たちは、木から木へと、高い声で鳴いていた。野原を風が吹き渡る。わたしたちは、ちりの中を這った。わたしたち、2匹の蛇は。

なお、「カフカ断章」ユリアーネ・バンゼ ECM 国内盤のリーフレットには、ヴァイオリンの演奏の仕方について以下のような面白い記述がある。

〈第24曲 私はけがれている、ミレーナ〉と〈第32曲 路面電車の光景〉では、低く調弦された第2のヴァイオリンが用いられ、さらに〈第34曲 路面電車の光景〉でも別の調弦で用いられる。楽譜では、それを歌手に対して普通とは逆の位置にある専用の台に置くように指示している。ヴァイオリン奏者が曲間や曲の最中に、ひとつのヴァイオリンから別のものに移るのを明らかに、ときには劇的にするためである。たとえば〈第32曲 路面電車の光景〉の場合、ヴァイオリン奏者は第2のヴァイオリンを弾き始め、カデンツァ風の締めくくり部分で第1の楽器の方に移動する。(ポール・グリフィス 訳:佐藤みどり)

>ヴァイオリン奏者が曲間や曲の最中に、ひとつのヴァイオリンから別のものに移るのを明らかに、ときには劇的にするためである。

2挺のヴァイオリンを持ち替えるだけではなく、それらを持ち替えたことが分かるように、わざと、2つめのヴァイオリンを遠くに置くということですね。

さて、このクルターグ作曲「カフカ断章」については、私は、ユリアーネ・バンゼ盤(2005 年録音)アドリアンヌ・チェンゲリ盤より、下記の Anu Komsi & Sakari Oramo 盤が気に入っている。この作品の〈第20曲 真実の道〉では、かなり高度なヴァイオリン演奏技法が求められるが、Sakari Oramo はうまい。また、Anu Komsi も微妙なニュアンスをうまく歌っている。Anu Komsi は、ノリントン指揮「マーラー4番」を歌っている。

Kafka

György Kurtág
Kafka fragments
Anu Komsi, soprano
Sakari Oramo, violin
Recorded: 1995
ONDINE

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