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2011年4月16日 (土)

ヴォルフガング・リーム作曲「ルカ受難曲」(1)

Rihm

Wolfgang Rihm
Deus Passus
Passions - Stücke nach Lukas
Juliane Banse
Iris Vermillion
Cornelia Kallisch
Christoph Prégardien
Andreas Schmidt
Gächinger Kantorei
Bach - Collegium Stuttgart
Helmuth Rilling
2000 年ライヴ録音

1. 結論から言うと、これは、作品・演奏ともに、非常に気に入った。リリングは作曲者の意図を完全に表していると思う。この作品は、グバイドゥーリナの「ヨハネ受難曲」と同じく、西暦 2000 年のバッハ没後 250 年を記念して、シュトゥットガルト国際バッハ・アカデミーの委嘱によって書かれた作品である。しかし、この作品は、バッハから遠い作品だと思う。すなわち作曲者の独自性が強い作品だと思う。音楽的には、ベルクを思わせる。ところどころ、ワーグナーを思わせるところもある。

2. 受難曲をオラトリオ(音楽劇)と捕らえるならば、この作品は、劇的効果に乏しい。全体的に遅いテンポで演奏され激しい部分が少ない(モデラートより速いテンポで演奏されるところは、1箇所ぐらいしかない)。

3. 独唱者、合唱者たちの役割も独特である。福音史家、イエスのパートを、複数の歌手が同時に歌う。たとえば、第 16b 曲のイエスの言葉「エルサレムの娘たち、わたしのために泣くな」は、独唱者たち全員と合唱によって歌われる。しかし、この作品の歌唱において、ポリフォニーは、おそらく使われていない。歌手たちは、入れ替わり立ち替わり歌うという感じで、複数の人がなんとなく同時に歌っているという感じである。その点に、私は、バッハのパロディーを感じた。第 14 曲のピラトの「あなたたちは、この男を、わたしのところに連れて来た」は、バスとテノールで歌われるが、まるで、ピラトが二人いるかように歌われる。唯一、バッハを思わせる点は、メゾ・ソプラノとアルトに重要な役割が与えられている点だと思う。メゾ・ソプラノとアルトはかなり低い声で歌うことが求められている。

4. この作品には、音楽を理論的にまとめあげる形式がないようだ。その点で、ベルクの「ヴォツェック」とは違う。しかし、それでも音楽の雰囲気は何となく、ベルクに似ている。

5. この作品は、劇的効果に乏しいと書いたが、劇的描写がないわけではない。第 17 曲「そこで人々はイエスを十字架につけた」では打楽器が強く演奏されるが、それは、キリストを十字架につける時の釘を打ち付ける音を思わせる。

6. テキストは、ルカ福音書によるが、断片的であり、ルカにユニークな場面、たとえば、十字架上のキリストが、善き盗賊に語りかける「はっきり言っておくが、あなたは今日わたしと一緒に楽園にいる。ルカ 23, 43」はない。しかし、よく見てみると、(同じルカ受難曲なので当たり前だが)ペンデレツキの「ルカ受難曲」とほぼ同じ部分からなっているようだ。ただし、繰り返すが、福音書に基づく部分は、断片的である。この作品は「ルカ福音書の断片からなる受難曲」と呼ばれる場合もあるようだ。

7. 第 17 曲「父よ、彼らをお赦しください。自分が何をしているのか知らないのです」の前で、アルトが長い「Ah」を歌うのは印象的だ。しかし、この曲におけるイエスの言葉も合唱と独唱者たちによって歌われるのは独特であると思う。この辺りから、音楽が次第に盛り上がっていく(リリング盤では、ちょうど Disc 2 から)。

9. この作品には、ラテン語の典礼文が用いられているが、その部分だけは、独唱者たちの普通の独唱が聴ける。このリリング盤における独唱者たちの歌唱は、良い演奏だと思う。特に女声は非常にすぐれており、聴き応えがある。

10. 第 22b 曲「父よ、わたしの霊を御手にゆだねます」から、この作品は普通の音楽になる。スターバト・マーテルも挿入される。そして、第 25b 曲「彼が担ったのはわたしたちの病」で、初めて長く、活気がある合唱曲が聴かれる。

11. この作品は、キリストの死を冷静に回想する。劇的・神秘的というより、観念的といってよいと思う(その意味ではドイツ的だ)。その観念は最後の曲、パウル・ツェラン(Paul Celan)作の「Tenebrae」に集約されていると思う。すなわち、キリストおよびその受難の像(イメージ)に、聴衆(リスナー)を近づけること。その点に、この作品のコンセプトがあり、その点において、この作品は、統一感がある。そのことが「受難曲の目的である」と考えれば、この作品は、受難曲として異色作品ではない。

12. 第1曲が「これは、あなたがたのために与えられるわたしの体である。この杯は、あなたがたのために流される、わたしの血による新しい契約である」に始まり、最後の曲がパウル・ツェランの「Wir haben getrunken, Herr. / Das Blut und das Bild, das im Blut war, Herr. (私たちは、飲みました、主よ / あなたの血と、血の中にあるあなたの像を飲みました、主よ)」で終わる。最初の曲と最後の曲が、共に「キリスト者が飲むキリストの血」を歌っている。

ヴォルフガング・リーム作曲「ルカ受難曲」歌詞対訳

Bosch
ジャケットに使われているヒエロニムス・ボスの絵が痛々しい

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