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2011年2月20日 (日)

Eötvös As I Crossed a Bridge of Dreams

Sarashina

Péter Eötvös
As I Crossed a Bridge of Dreams (CD and Audio DVD)
Sound theatre (in English)
Tex from diary of Lady Sarashina, born in 1008, Japan
English translation: Ivan Morris, Penguin Classics Ed. 1975
Libretto: Mari Mezei
Elizabeth Laurence, recitation
Mike Svoboda, alto trombone with double - bell
Gérard Buquet, cb. trombone with double - bell, sousaphone
UMZE Chamber Ensemble
Gergely Vajada, conductor
Recorded: 2001 - 2008

「As I Crossed a Bridge of Dreams」は、ペーター・エトヴェシュが、更級日記を題材にして書いた朗読による音楽劇。この作品およびこの録音の魅力は、音楽よりむしろ朗読にある。台本を書いた Mari Mezei およびエトヴェシュの更級日記理解は、むしろ日本人よりも上手な解釈を実現していると思う(私は更級日記を読み直してみたが、原作だけを読むよりイヴァン・モリスの英訳やエトヴェシュの解釈によって、この作品の面白さが強く伝わると思った)。私は、この作品の台本のもとになっているイヴァン・モリス(Ivan Morris)英訳の「As I Crossed a Bridge of Dreams」に一通り目を通してみたが、それは原文に忠実な訳であった。そして、それをもとに、私は、例によって歌詞対訳を作成した(下記)。

イヴァン・モリス、エトヴェシュが、なぜ、更級日記に興味を示したか。それは、この作品が持つ幽玄とか仏教的無常観よりも、作者菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)の女としての強さ、そして、少女の初々しさを 50 代まで(死ぬまで)失わなかった彼女の生命感だと思う。孝標女は、51 才で夫を亡くしたのをきっかけに更級日記を執筆したとあるが、この更級日記は失意や悔恨や仏教的懺悔より、彼女の生き方の肯定的側面で構成されていると思う。彼女はこの日記に、少女時代の情熱を、新鮮な観察眼・感受性を、まるでリアルタイムに書いていることからして、彼女は老いても若い生命感を失っていなかったと感じることができると私は思う。

第2曲「猫と夢と」で猫が火事で死んだと書いてあるが、それがあっさりと語られるのに、私はびっくりする(やっぱり女は強いなあ。私は火事が恐い)。また、孝標女は、多くの人と死別しているが、夫の死以外はあまり引きずっていないような気がする。その点にも彼女の強さを感じる。

「更級日記」の山場が、エトヴェシュの「As I Crossed a Bridge of Dreams」の第5曲で取り上げられている「時雨の夜の思い出」であることは、日本の古典文学者も認めるところであろう。その場面における源資通(みなもとのすけみち)との邂逅(この源資通という人は、凡人父菅原孝標や夫橘俊通よりはるかに才人であった)。その邂逅だけが、菅原孝標女、つまりすぐれたセンスの持ち主である才女「レディー・サラシナ」に似つかわしい。そのことを理解している Mari Mezei およびエトヴェシュに、私は、彼らの作品理解の深さを感じる。

私は日本の古典文学が好きなので、このアルバムは非常に気に入ったが、このアルバムは、日本の古典文学が好きな人、あるいは、エトヴェシュが好きな人以外には私は薦めない。なぜなら、上でも書いたとおり「As I Crossed a Bridge of Dreams」の魅力は、音より、演劇的要素(音楽劇的演出とか朗読)にあるからだ。

【付記】
冒頭にささやかれる言葉は、

Cross it, and trouble lies ahead.
Do not cross, and still you're trouble - bound.
Truly a troublous place
In the Ford of Shikasuga

に基づく。

更級日記第11章「三河、尾張へ」の

「三河と尾張のとの国境にある『しかすがの渡り』は、なるほど古歌に詠まれる通り、渡ろうか渡るまいかと思い悩んでしまいそうでおもしろい。」

と、ある。その古歌とは、

行けばあり 行かねば苦し しかすがの 渡りに来てぞ 思ひわづらふ

上記は、この古歌の英訳である。

ペーター・エトヴェシュ作曲 朗読による音楽劇『夢の橋を渡るように』(As I Crossed a Bridge of Dreams) 歌詞対訳

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