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2011年1月22日 (土)

ペンデレツキの「ポーランド・レクイエム」その1

Polish_requiem

Penderecki
A Polish Requiem
Royal Stockholm Philharmonic Orchestra
Conducted by Krzysztof Penderecki
Recorded: 1995
CHANDOS

Polish_requiem_2

Penderecki
A Polish Requiem
Warsaw National Philharmonic Orchestra
Antoni Wit
Recorded: 2003
NAXOS

英文ウィキペディア「Polish Requiem」によると、この作品は、当初、1980 年にポーランドの独立自主管理労働組合「連帯」の依頼により、ポーランド反政府暴動(1970 年)「Polish 1970 protests」の犠牲者を追悼するモニュメントの除幕式の伴奏として作曲された。その時に書かれたのが「Lacrimosa(涙の日)」であり、それは、レフ・ヴァウェンサ(ワレサ)氏に捧げられた。次に 1981 年、「アニュス・デイ」が、ペンデレツキの友人であった枢機卿ステファン・ヴィシンスキ(Stefan Wyszynski)を追悼して書かれた。そして、1982 年には「Recordare(思い出してください)」が、マキシミリアノ・コルベ神父(Maximilian Kolbe)の列福式(beatification)のために書かれ、「Dies irae(怒りの日)」は、1944 年 8 月 1 日に起こったワルシャワ蜂起を記念して書かれた。さらに「Libera me, Domine(主よ、お救いください)が、カティンの森事件(Katyn massacre)の犠牲者を追悼して書かれた。以上が最初の版である。この最初の版は、1984 年 9 月 28、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ指揮シュトゥットガルト放送交響楽団によって初演された。その後、1993 年に「サンクトゥス」が書き加えられ「サンクトゥス」を含む改訂版が、ペンデレツキ自身の指揮で、同年 11 月 11 日にストックホルムにて演奏された。

以上、私は、この作品の成立史をひも解くために、そして、この作品が書かれた経緯を調べるために、上記、ウィキペディアの記事を閲覧した。私は、それらの記事に、目をおおいたくなるような残酷さを見てショックを受ける。ポーランド民族のとてつもない悲劇。私はその悲劇の「悲惨さ、残酷さ」を見て、何とも言えない絶望感を覚える。そして、その絶望感を私に認識させ、その絶望感を増幅させるのが「ポーランド・レクイエム」である。

ペンデレツキは、この「ポーランド・レクイエム」の意味について、以下のように述べたそうだ(ウィキペディアより)。

I don't write political music. Political music is immediately obsolete. My Threnody to the Victims of Hiroshima remains important because it is abstract music. The Requiem is dedicated to certain people and events, but the music has a broader significance.

私は政治的な音楽は書かない。政治的な音楽は、すぐにすたれてしまう。私の「広島の犠牲者に捧げる哀歌」は、それが抽象音楽であるからこそ重要なのだ。このレクイエムは、特定の人物や出来事に捧げられているが、この作品は、より広い意味を持つ音楽である」

ペンデレツキは上記のように述べているが、私は例によってこの作品の歌詞対訳を作成し(レクイエムの歌詞対訳はレクイエムの CD のリーフレットなどに載ってあるのであえて歌詞対訳を作らなくてもよかったが勉強のために作った)、この作品を、何度か聴いてみると、私は、この作品には「政治的情景」が当てはまると思う・・・というより、このレクイエムはポーランドの悲劇を当てはめて聴くほうが分かりやすいのではないかと私は思う。

レクイエムといえば、モーツァルトの作品が、余りにも素晴らしいので(あれは、バッハやベートーヴェンにも書けないほどすぐれた作品だと私は思う。実際、バッハとベートーヴェンはレクイエムを書いていない)恥ずかしながら私はモーツァルトのレクイエムしか知らない(ヴェルディとフォーレのレクイエムは少しだけ聴いたことある)。レクイエムは、鎮魂曲と訳されるように、言うまでもなく、死者の魂の平安を祈る歌であり、生きている者には死者の追悼の歌であり、死者を偲んで歌われる歌であるはずだ。そして、レクイエムにおいては音楽が、最後には精神的な平安に至るはずであるが、ペンデレツキの「ポーランド・レクイエム」を聴くと、私は、平安、安息、つまりは世界の平和が、多くの犠牲を代償にしなければ得られないもの、もっとひどい言い方をすれば「世界の平和は、人類が、いかに多くの犠牲を代償にしても得られないものではないか」と思わせられた。

具体的に書こう。

1. この作品の第16曲は「奉献唱」であるが、このなかで詩編 6 編 5, 6 節が、歌われる。

「死の国へ行けば、だれもあなたの名を唱えず、陰府に入れば、誰があなたに感謝をささげるでしょうか?」

これは、レクイエムの典礼文にはない。これは「あの世に行けばもはや神への平和の希求もできなくなる」ということを歌っているのでないだろうか。つまり、生きているからこそ平安を求められるのであって、死んでしまったらオシマイということである。これは鎮魂曲の意義に反する。つまり、この部分は、死が、苦しみであり、すべての終わりであり、絶望以外の何ものでもないことを歌っていると私には思える。戦争などの犠牲者の死はあまりにも重い。人間は、誰しも生きていればこそ、生きる希望を持てる。しかし、死は救済を不可能にするのではないだろうか。

2. この作品全曲において、ポーランドの古い讃美歌「Swiety Boze(聖なる神よ)」は、重要な旋律である。この讃美歌は「supplication sung in Poland in moments of danger(ポーランドが危機に瀕してる時に歌われる嘆願)」と、ウィキペディアに書かれてある。この讃美歌にペンデレツキは深い共感を覚え、第8曲「Recordare, Jesu pie(思い出してください)」において、彼は、それを効果的に使っている。その中で、ペンデレツキは、ポーランド民族が危機にあるときこそ、ポーランド民族は神の恩寵と救済を求めることができることを示そうとしたのではないか、と私は思った。つまり私は「Swiety Boze(聖なる神よ)」は「ポーランド・レクイエム」の中心的モチーフであると思った。

3. ところがである。次の第9曲「Ingemisco(私は罪人のように嘆き)」は、救済への願いが、騒乱にかき消される。第9曲「Ingemisco」は、ワルシャワ蜂起を思い浮かべないと理解しにくい。第9曲の最後から2節目「Confutatis maledictis, Flammis acribus addictis:(呪われた者たちが退けられ、激しい炎に飲みこまれるとき)」には、モーツァルトも彼のレクイエムにおいて、激しい音楽を付けている。しかし、その前の部分、つまり、

(マグダラの)マリアを許し
盗賊の願いをもお聞き入れになった主は
私にも希望を与えられました。

私の祈りは価値のないものですが、
優しく寛大にしてください、
私が永遠の炎に焼かれないように。

私を羊たちの中に置き、
牡山羊から遠ざけ
あなたの右側においてください。

の部分に、モーツァルトは穏やかな音楽を付けた。それに対し、ペンデレツキは、なぜ、その部分に悲痛で激しい音楽を付けなければならなかったのだろうか(せっかく、第8曲で救いを求め嘆願したのに、第9曲ではまた混乱と絶望が聞こえるような気がする)。私見では(「Ingemisco」を含め)「Dies irae(怒りの日)」は、やはりワルシャワ蜂起の描写音楽ではないかと思う。

ちなみに、ポーランド・レクイエム前半の山場は第8、9曲であろう。なぜなら、その二つは演奏時間が長い。

4. 「Dies irae(怒りの日)」がワルシャワ蜂起の描写音楽に聞こえるのと同様に「Libera me, Domine(Responsorium、応答聖歌)」はカティンの森事件の描写音楽に聞こえる。
(つづく)

ペンデレツキ作曲「ポーランド・レクイエム」歌詞対訳

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