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2011年1月16日 (日)

ジャチント・シェルシの『やぎ座のうた』

Scelsi

Giacinto Scelsi (1905 - 1988)
Canti del Capricorno 1 - 19 [1962-1972]
Michiko Hirayama, voice
Alvin Curran, thai - gong (No. 1)
Masami Nakagawa, saxophone (No. 5 & 7)
Sumire Yoshihara / Yasunori Yamaguchi, percussion (No. 14 & 18)
Michiko Hirayama, bass recorder (No. 19)
No. 1 & 19 Private recordings, 1969
No. 2 - 18 Private recordings, 1981 / 82
WERGO

猫大好きさんおすすめの、平山美智子によるジャチント・シェルシの声楽曲『やぎ座のうた』を聴いてみた。最初聴いたときは、小野洋子の声に似ていると思ったが、両者をよく比較してみると全然違う。

小野洋子の声は平和運動のイヴェントとの結びつきがなければその価値はない。また、ビートルズの人気の否定、ジョン・レノンの名声の否定として聴くとき、我々はその価値を見出す。小野洋子の声が、アヴァンギャルド芸術が持つスキャンダラスとそれを逆手に利用した平和運動のための表現手段であったのに対し、平山美智子の声は、むしろ過去を向いていると思う。しかも(東洋と西洋の区別なく)かなり原始的な時代にまで遡らなければならないと思う。

平山美智子の『やぎ座のうた』は呪術的なもの、シャーマニズムを連想させるが、それとも違うと思う。平山美智子の『やぎ座のうた』の原点は、西洋音楽においてはメリスマの原点、日本音楽においては日本民謡の小節(こぶし)の原点と一致しているのではないかと思う。

さて、メリスマとヴィブラートの違いとは何か。私は、シュトックハウゼンの「Stimmung」で「人間の声の中で最も原始的なものは、赤ちゃんの泣き声だろう。そして、最も人工的なものは、カストラートのソプラノの歌声だろう」と書いた。メリスマは子どもの泣き声に近いと思う。一方、ヴィブラートはカストラートの強力な武器であっただろう。メリスマは子どもにも歌えるが、ヴィブラートは子どもには歌えない(バッハのカンタータのボーイソプラノを聴けばすぐ分かる)。

平山美智子は日本民謡にはないはずのヴィブラートも使う(第3曲など)。これはヴィブラートの原点とも言っていいかも知れない。それは音程が不安定なヴィブラートであり、文字通り声の震えでしかないのであり、ヴィブラートとは言えないのかも知れない。また、これを聴くと、ヴィブラートは声を遠くに飛ばすための手段だったのかも知れないと思わせられる。

(話はそれるが、バッハやヘンデルの宗教曲をカストラートが歌ったとき、彼らはヴィブラートを使ったのかという疑問を私は抱く。現在、古学アンサンブルの器楽はノンヴィブラート奏法をしているが歌唱はヴィブラートで歌っている。あれは正しいのだろうか。)

さらに、平山はホーミー(倍音唱法)も使っているようだ。

こういう音楽を聴くと「歌ってそもそも何?」「楽器がうまい人は歌もうまいから、歌は楽器を弾ける人やちゃんとした音楽教育を受けた人のほうがうまいのか?」などなど、疑問が出てくるが、きりがないので今は書かない。

こういう音楽を聴く時に大事なことは「それを聴いて楽しいか、また美しいか」ということである。が、平山美智子の『やぎ座のうた』は間違いなく「美」である。しかし、平山美智子の声は、あまりに原始的なものに遡り過ぎていて、楽しい音楽とは違うような気がする(もっと楽しい音楽はクルターグの声楽作品であろう)。ただこれは、日々、ストレスに悩まされている現代人には、ストレス解消にはなる。しかし、それなら小野洋子の歌もまたストレス解消にはなる。

平山美智子は『やぎ座のうた』を再録音しているが、私は再録音のほうは聴いてない。

【HMV.co.jp へのリンク】
Canti Del Capricorno: Curran Hirayama Nakagawa Yamaguchi Yoshihara

ジャチント・シェルシ『やぎ座のうた』 平山美智子(声、ゴング、リコーダー)グレーツィンガー(打楽器)、他

【追記】
第15曲以降で、平山は小野洋子の影響を受けているのではないかという印象を受ける。

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