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2010年12月26日 (日)

クルターグの「カフカ断章」試訳

第1部
1 善良な人々が規則正しい歩調で歩む

善良な人々が規則正しい歩調で歩む。善良な人々を知らない人々は、善良な人々の周りで踊る。時の踊りを。

2 秋の道のように
秋の道のように、掃いたとたんに乾いた葉が覆ってしまう。

3 隠れ家
隠れ家は数えきれないほどあるが、救いは一つしかない。しかし、救われる見込みは隠れ家と同数だ。

4 眠れない

5 子守歌 I
あなたの外套で子どもを包んでください。高貴な夢よ。

6 もう二度と(放逐)
もう二度と、もう二度と、お前は街に戻らない。もう二度とあの大きな鐘はお前の上に鳴ることはない。

7 「彼がわたしに、いつも問うとき」
「彼がわたしに、いつも問うとき」という文章から「問」という語が分離してボールのように飛んで行った。牧場の上を。

8 誰かがわたしの服を引っ張った
誰かがわたしの服を引っ張った。しかし、わたしはそれを振り払った。

9 お針子さんたち
大雨の中のお針子さんたち。

10 駅の風景
列車が通過するとき、それを見る人々はこわばる。

11 1910 年 7 月 19 日 日曜日(子守歌 II )
眠って、起きて、眠って、起きた、みじめな生活。

12 わたしの耳
わたしの耳は、新鮮で、でこぼこで、冷たく、ジューシーだ。一葉の葉のように。

13 かつてわたしは脚を骨折した
かつてわたしは脚を骨折した。それはわたしの人生で一番素晴らしい経験だった。

14 甲羅に被われる
一瞬、わたしは自分が、甲羅に被われたと感じた。

15 二つの散歩用ステッキ
バルザックのステッキを握ると、わたしはすべての障害を屈服させる。
わたしのステッキを握ると、すべての障害がわたしを屈服させる。
「すべて」である点は共通している。

16 後戻りできない
或る地点からは、もはや後戻りできない。
その地点は到達されなければならない。

17 プライド(1910年11月15日、10時)
私は自分を疲れさせないようにしよう。私は私の小説の中に跳び込もう。たとえ、そのために、私の顔が切り裂かれても。

18 夢を見ながらその花はぶら下がっていた
夢を見ながらその花はぶら下がっていた。高い茎に。
黄昏がそれを包んだ。

19 そんなことはない
そんなことはない。そんなことはない。

第2部
20 真実の道

真実の道は、高いところに張られている綱の上ではなく、地上すれすれの綱の上を進む。その道は、歩かれるためにあるのではなく、むしろ人をつまずかせるためにある。それが定めのようだ。

第3部
21 持つ? 在る?

持てるものはない。ただ在るだけだ。最期の息、窒息死を希う(こいねがう)存在が在るだけだ。

22 処罰としてのコイトス
人と共に在ることの幸福を罰する処罰としてのコイトス。

23 わたしの要塞
わたしの監獄の独房 --- わたしの要塞。

24 私は汚れている、ミレーナ・・・
私は汚れている。ミレーナ。とてつもなく汚れている。だから、私は純潔について、こんな大騒ぎをするんだ。とても深い地獄の中にいる人々ほど純潔な歌を歌える人はいない。彼らの歌こそ天使の歌なのだ。
【注】ミレーナは、カフカの恋人。

25 みじめな生活(変奏曲)
眠って、起きて、眠って、起きた、みじめな生活。

26 閉じた円
閉じた円は純粋だ。

27 目的、道、ためらい
目的地は在る。しかし道がない。わたしたちが道と呼ぶもの。それはためらいだ。

28 とても固く
とても固く手が石を握る。だが手が石を固く握るのは、その石をより遠くへ投げ飛ばすためだ。しかし、どれほど遠くに石を投げ飛ばしても、そこへと道は続いている。

29 ユダヤ人気質を貫く
あなたは世界と戦いながら、世界の介添えをしなさい。

30 隠れ家(変奏曲)
隠れ家は数えきれないほどあるが、救いは一つしかない。しかし、救われる見込みは隠れ家と同数だ。

31 驚嘆して私たちはその大きな馬を見た
驚嘆して私たちはその大きな馬を見た。その馬は、私たちの部屋の屋根を破った。曇った空は、その巨大なシルエットをたどって弱々しく流れ、馬のたてがみはサラサラと風になびいた。

32 電車の中の風景
踊子エドゥアルドヴァは音楽愛好家である。彼女は、どこに行く時も、電車で旅をするときは、二人のヴァイオリニストと同伴だ。彼女は、その二人にしばしば演奏させる。なぜなら電車の中で演奏することは禁じられてはいない。というのも彼らの演奏はうまいし、そして乗客を喜ばせるし、無料だからだ。つまり、あとで寄付金を集められることはないからだ。もっとも、演奏が始まる際に、乗客は皆、少しびっくりする。そして、しばらくの間、その演奏は場所柄をわきまえない行為だとみなされる。しかし、フルスピード、強い風の流れ、静かな街路、そんな中で演奏される音楽は、すてきに響く。

第4部
33 遅過ぎる(1913年10月22日)

遅過ぎる。甘美な悲しみと愛。小舟の中で彼女は微笑んだ。それは、あまりにも美しかった。途絶えることのない希死念慮。我が身を支えるのは愛のみだ。

34 長い物語
私は一人の少女の目を見つめている。そして、かつて、とても長い愛の物語があった。その物語は、雷、口づけ、稲妻と共にあった。私は大急ぎで生きている。

35 ロベルト・クラインを悼んで
まだ猟犬たちは中庭を駆け回っている。しかし、獲物は猟犬たちから逃げ去ろうとしない。いま森の中は狩りが行われているというのに。

36 一冊の古いノートブックから
いまや夕暮れだ。私は朝の6時から勉学に励んだ。気がつけば、しばらく前から、私の左手は右手に同情して、指を絡ませて右手を握っていた。

37 レパード(豹)たち
レパード(豹)たちが、寺院に侵入し、聖水盤の聖水を飲み干す。それは、何度も繰り返されるので、結局、人々は、それを予測することができ、そして、それは儀式の一部となるだろう。

38 ヨアニス・ピリンツキーを悼んで
私は本来、物語ることができない。いや、話すことさえできない。わたしが物語るとき、わたしはたいてい、小さい子どもが最初に歩く時のような気持ちになる。

39 ふたたび、ふたたび
ふたたび、ふたたび、遠くへ追放された、遠くへ追放された。山々、砂漠、広大な国をさすらわなければならない。

40 月夜がまぶしかった
月夜がまぶしかった。鳥たちは、木から木へと、甲高い声で鳴いていた。野原はざわめいていた。わたしたちは、ちりの中を這った。わたしたち、2匹の蛇は。

【2011年1月10日 追記】
Amazon.co.jpのクルターク: カフカ断章に、各曲の題名(日本語)が載っていて、それを見ると私の訳にいくつか誤訳、またはニュアンスの違いが見つかった。

「1 善良な人々が規則正しい歩調で歩む」
Die Guten gehn im gleichen Schritt. Ohne von ihnen zu wissen, tanzen die andern um sie die Tänze der Zeit.
アマゾンでは「よいことは足並みが揃う…」だが、これは「よいこと」と訳すと後が続かないような気がする。あえて訳せば「よいことは足並みが揃う。それについて知ることなく、その他のことは、そのまわりで、時の踊りを踊る」

「4 眠れない」"Ruhelos" は、私がたまたま不眠症なので「眠れない」と訳したが、"ruhelos" は直訳すると「落ち着きのない」「不安だ」という意味。

「19 そんなことはない」"Nichts dergleichen" は、アマゾンでは「なんでもないことだ」と訳されてある。これは、後者のほうがよい。

「26 閉じた円」は「閉鎖的集団」のほうがよいかも知れない(円というのは、そもそも閉じているので「閉じた円」というのは不自然)。Der begrenzte Kreis ist rein. 閉鎖的集団は清い(罪がない)。

「29 ユダヤ人気質を貫く」"Penetrant jüdisch" は、直訳すると「不快にユダヤ的な」。

「32 電車の中の風景」"Szene in der Elektrischen" は「路面電車内の光景」のほうがしっくり来る。

以上、題名だけでも、私の訳にニュアンスの間違いが多くあるのだから、それに続く本文には誤訳やニュアンスの間違いはもっと多くあると思う。

【2011年1月25日 追記】
「1 善良な人々が規則正しい歩調で歩む」
Die Guten gehn im gleichen Schritt. Ohne von ihnen zu wissen, tanzen die andern um sie die Tänze der Zeit.

「よいことは足並みが揃う。よくないことは、よいことなんぞ知ることなく、なかなか進展しない。まるで時の踊りのように」

という訳でいいかも。

【クルターグの「カフカ断章」改訳に続く】

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