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2008年9月13日 (土)

ジークフリート第3幕聴き比べ(2)

Ring_boulez


Richard Wagner
Siegfried Act 3 [75'41]
Der Wanderer: Donald Mcintyre
Erda: Ortrun Wenkel
Siegfried: Manfred Jung
Brünnhilde: Gwyneth Jones
Orchester der Bayreuther Festspiele
Pierre Boulez
1980年ライヴ録音
PHILIPS


ブーレーズの「ジークフリート第3幕」は、演奏時間が短い。

ブーレーズ 75'41
ハイティンク 79'26
レヴァイン 84'50

演奏時間が短く密度が濃い。それによって、ブーレーズの《指輪》は黄昏れつつあったバイロイトを席巻したのだろう。

前奏曲からして、手慣れた演奏を聞ける。なにしろ、この《指輪》は、1976年から数えて5年目なので、もう15回以上演奏している計算になる。

このジークフリート第3幕におけるマッキンタイアは、私はあまり好きではない。エルダとの対話においても、ジークフリートとの対話においても緊張感が薄い。声質のせいかも知れん。あるいは(褒めてすぐ貶すのは変だが)ブーレーズの速い演奏のせいかもしれない。ただし、リズムと音楽の流れは充実している。

ブーレーズがバイロイトで指輪を振ったとき、初年度、聴衆から拒否反応をくらっただけでなく、オケからもボイコットされるほど、彼の音は省エネモードだった。それは、このCDからも伝わる。たしかに、この大音響を避けた演奏が、自ずとスピード感と充実感を両立させるのだろう。

マンフレート・ユングのジークフリートは素晴らしい。彼の歌唱からは、台本を非常に読み込んでいることが感じられる。ジークフリートを歌うヘルデンテナーは、ヴィントガッセンの録音が多いが、ヴィントガッセンのは多すぎて飽きた。ユングのジークフリートは、ヴィントガッセンのヘルデンテナーに倣いながらも新鮮に聞こえる。単に新鮮であるだけでなく、巧い。ユングが、ブーレーズの速いテンポでもヴィントガッセンなみの表現力を聞かせる秘密は、台本の読みの深さだと思う。元気でヤングなユングの歌唱はスコアに忠実である。が、それだけでなく、言葉が自然に口から出てくるように聞こえる。例えて言えば、まるで、自分が作詞した歌を歌っているような感じだ。ユングの歌唱は非常に自然に聞こえる。こういうジークフリート歌手は、それ以後出ていないのではないだろうか。たとえば、ユングが下記の部分を、思い切って音程を外すのも気持ちよい。

Jetzt lock' ich ein liebes Gesell!
今度こそ可愛い仲間を誘おう!(第2場の最後)

細かいことだが、私はこの行を「今度こそ可愛い仲間を誘おう!」と訳したが、これは、第2幕にて角笛で仲間を誘ったら、可愛くないファーフナーがでてきたので「今度こそは可愛い子ちゃんが出てきてくれ!」というニュアンスで訳した。これは、コミックのあずみ椋氏の表現をパクった。私の訳は、全体的にあずみ氏の表現をパクっている。

私はユングを非常に高く評価する。それに対し、ギネス・ジョーンズの歌唱は、ビデオでの演技に比較し、音だけで聞くと意外に表現が弱く聞こえる(声はでかいが...)。ユングの表現力とは釣り合わないと思わせるほど。
その点期待はずれだった。

ただ、ジョーンズの歌唱は、押し付けがましいベーム盤のニルソンと好対照だと思う。というか、ベームの指輪は、解釈の自由を聴衆に与えない指揮だった。ブーレーズの記号化された指輪はその逆である点がいい。その意味で、ジョーンズの表現力の弱さは、かえっていいのかも知れない。

記号と言えば、元来、クラシック音楽というのは記号を再現する芸術、ととらえると、ブーレーズの指輪は非常に興味深い成功例だと思う(他のケースではブーレーズは失敗例もあるようだが...)。ブーレーズの指輪は、フルトヴェングラーへのアンチテーゼであったばかりでなく、ベームへのアンチテーゼでもあったと思う。ベームのジークフリート第3幕を改めて聴き直してみると、リスナーに解釈を強制してしまうほどの強い表現を持っている。それは、指輪から贅肉をそぎ落とすことには成功しているように思える。しかし、ベーム独特の前々世紀的な堅い表現を繰り返して聞くのは、ベームのファンである私であっても苦痛である。ベームの指輪には、まだ、大音響と古くさい歌唱があった。それに対して、ブーレーズの指輪は、音楽を自然に記号化した最初の例だと思う。ちなみに、ベームのジークフリート第3幕は、75'43 であるので、ブーレーズと変わらない。

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でも声が嗄れっていると当時批判されましたよ、、、

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