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2008年9月12日 (金)

ジークフリート第3幕聴き比べ(1)

Ring_haitink


Richard Wagner
Siegfried Act 3 [79'26]
Wanderer: James Morris
Erda: Jadwiga Rappé
Siegfied: Siegfried Jerusalem
Brünnhilde: Eva Marton
Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunks
Bernard Haitink
1990年スタジオ録音
EMI


 「第九交響曲の聴き比べは、どうしたの?」といわれそうだが、その前に、ワーグナーの「ジークフリート第3幕」の聴き比べをする。

「ジークフリート第3幕」を試訳してみた(試訳)。まだ、きちんとチェックしていない暫定版です。誤訳など、ご指摘いただければ幸いです。

上記、ハイティンク盤の「ジークフリート第3幕」は、結論から言うと、非常にいい。ドイツ語はよく聴き取れる。それだけでも素晴らしい。ワーグナー歌手というのは、言葉を大事にしてるのかどうか、すぐばれる。ハイティンク盤の上記、4人の歌唱は、いずれも、きちんと歌っている。ワーグナー(特に指輪)の場合、この「きちんと歌う」というのが難しい。なにしろ大量の声量を要求されるし、音程の安定感も要求される。逆に、ジークフリートという役は、ある程度、音程を外さないと面白くない。

指輪を歌う歌手には、リズム、音楽の流れの良さ、さらに、文学として読んでもレベルが高いワーグナーの台詞の意味を深く理解していることが求められる。それらは、指揮者の指示によるものと考えれば、歌手は指揮者の要求通りに歌って、その結果、上記をクリアをすればよいわけだが、ワーグナーに限らず、オペラでは、指揮者と歌手の共同作業が、歌唱の良し悪しを決めるといえるだろう。その意味で、ハイティンク盤の「ジークフリート第3幕」は合格。

ハイティンクの指揮は、軟派だがツボは押さえている。開放感がいい。緊張感もある。聴いて疲れない演奏である。彼の「ジークフリート第3幕」の幕切れはエキサイティングであり、心地よいカタルシスを感じさせてくれる。

オケは、バーンスタインの指揮などで良い演奏を聴かせるバイエルン放送交響楽団。

このオケは、指輪を演奏するのに、まったく力不足を感じさせない。

ハイティンク盤は、オケの音量と歌唱の音量のバランスがちょうどいいと思う。この録音は、多分いいのだと思う(例によって、私は変なオーディオ環境しか持たないので、断言はできない)。

ブリュンヒルデ役の Eva Marton は、若干、経験不足を感じさせる。

Eva Marton の歌唱は最初聴いたとき、ドイツ語が下手に聞こえた。やっぱり、経験の無い人(この人のことを私はまったく知らないのだが、多分過去に、舞台でブリュンヒルデを歌ったことない人だと思う)がブリュンヒルデを歌うのは無理かと持ったが、何度か聴くうちに私は慣れてきた。大健闘していると思う。この人が《黄昏》を完璧に歌っていれば、この指輪はかなりポイント高いと思う(私はまだこのハイティンクの指輪全曲を聴いてない...)。


Ring_levine


Richard Wagner
Siegfried Act 3 [84'50]
Wanderer: James Morris
Erda: Birgitta Svendén
Siegfied: Reiner Goldberg
Brünnhilde: Hildegard Behrens
The Metropolitan Opera Orchestra
James Levine
1988年スタジオ録音
Deutsche Grammophon


 これは、オケの音が少しうるさい。それから、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが対抗配置らしいが「ジークフリート第3幕」からは、その効果はあまり感じられなかった(ほかの部分は、これもまだ聴いてない)。

もともと、メトロポリタン・オペラの管弦楽団は《指輪》を演奏するには、少し音色が明るすぎやしないか。たとえば、この「ジークフリート第3幕」は、第1場のト書きに「夜、嵐、雷雨、稲光と激しい雷鳴」とある。そして、エルダは、霧の "Gruft"(墓という意味と洞窟という意味がある)の中に眠っている。他方、第3場ブリュンヒルデの眠る岩山の頂上は「明るい昼の青空」とある。第1場のジメジメした雰囲気から、第3場の明るい青空への対比。それが、レヴァイン盤では、あまり感じられない。もともと《指輪》は、北欧神話、ゲルマン神話を素材にしているのだから、霧の国のジメジメした雰囲気が欲しい。その点、アメリカのオケは明るすぎる。すなわち明るいアメリカのオケより、ドイツのオケがあってるような気がする(一概にはいえないが...)。

James Morris のヴォータンは、ハイティンク盤より、おじさん臭く聞こえる。

実は、私、ジェイムズ・レヴァインのオペラ指揮に対しては、絶対的信頼を置いている。それは、彼の《コシ・ファン・トゥッテ》の巧さを経験したことによる。したがって、この「ジークフリート第3幕」も、最初から安心して聴けた。すなわち「第3幕第3場のエンディングに向かって、素晴らしい音楽を構築しているに違いない」と思いつつ聴いてみたが、まさにその通りであった。

レヴァイン盤の安定感は、ハイティンク盤より、遥かに勝っている、

と、言ってしまったら、ハイティンクの「ジークフリート第3幕」への私の高い評価に矛盾するし、ハイティンクのファンに悪いが、やはり、レヴァインは巧い。レヴァインは、ワーグナーの指揮に関してはハイティンクより格が上だと思う。

上に「オケがうるさい」とか「明るすぎる」とか書いたが、それは辛い評価をした場合である。レヴァインの指揮する「ジークフリート第3幕」は、オケが雄弁であり、間の取り方が巧いし、まったくリズムに狂いがない。私はレヴァインの「ジークフリート第3幕」を初めて聴いたときから、即、レヴァインの呼吸を感じることができた。それに比し、ハイティンクの「ジークフリート第3幕」のほうは、そのリズムに慣れるまでに、かなり時間を要した。後者のリズムに慣れるために、私は、それを(もしかしたら)5 - 6 回、聴き直おしたかも知れない。

さて、レヴァイン盤で、ジークフリートを歌っているのは、Reiner Goldberg という、(多分)無名の人だが、それでも、この Goldberg の技量(リズム感とか表現とか)に、ほとんど不満を感じさせないのは(少しは感じる)、レヴァインの力であろう。私が、Reiner Goldberg に不満を感じるとすれば、それは、彼の個性の無さと、美声でないことだ(表現力もいまいち弱い気がする)。しかし、この人も、ハイティンク盤の Eva Marton 同様、敢闘している。

次に、Hildegard Behrens について。
彼女の声を、今回(8月に)、サヴァリッシュ盤とこのレヴァイン盤の《指輪》を購入して、私は初めて聴いた。が、Behrens のブリュンヒルデは私は好きだ。少しかすれたような、少し憂いのある声質は、昔、シノーポリが、2000年に《指輪》を指揮したとき、シノーポリが発見し、バイロイトでブリュンヒルデを歌わせた歌手(名前は忘れた)のことを、私に思い出させた。その人は、小柄で、華奢で、バレリーナの経験を持つ人だと紹介されていた。身体の柔らかさが、演技だけでなく歌唱にも現れている、と、NHK の解説者の人が言っていたような...。

閑話休題
そもそも、ブリュンヒルデを歌う歌手はどんな歌手がいいのだろうか。「ニーベルンゲン・リート」にでてくるブリュンヒルデは、ジークフリートと、投げやりとか砲丸投げ(だったかな)をして、互角の勝負をした怪力女だが、ワーグナーの《指輪》に出てくるブリュンヒルデは、ワルキューレでは人情もろいところを見せ、ジークフリートでは「人間の女」になるのだから、半分、神格で、半分、人格だ。私は、ビルギット・ニルソンとはまったくイメージが異なる、というか、正反対のブリュンヒルデを聴いてみたい。


最後に、
第3幕のエンディングの手前の部分(ジークフリートの歌唱)、

das Fürchten, das du mich kaum gelehrt:
das Fürchten, - mich dünkt -
ich Dummer vergaß es nun ganz!

怖れ、それをあなたが教えてくれたが、
怖れ、- おれは思うに -
馬鹿なおれは、もうまったく忘れちまった!

のところで、オケが「森の小鳥の歌」を奏するのはどういう意味だろうか? 歌詞と関係ないような気がするが...。ワーグナーの指輪では、ときどき、ストーリーと関係ないと思えるライトモチーフが出てくるが、ここも、その場面のひとつだと思う。この小鳥のモチーフを、レヴァインははっきり示していない。しかし、そのあとの二重唱と幕切れは、何度聴いても気持ちいい。(つづく)


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コメント

Hildegard Behrens について、ひとこと。
最近、サヴァリッシュ盤を手に入れてレヴァイン盤と聴き比べてみました。
たしかに、サヴァリッシュ盤の方が余裕が感じられます。
そこで、レヴァインによるDVDを引っ張り出して聴いてみました。DVDではサヴァリッシュ盤に近い感じです。

そこで「ワルキューレ」の収録の時期を確認してみました。
・サヴァリッシュ盤 :1989年11月
・レヴァイン盤CD :1987年 4月
・レヴァイン盤DVD:1989年 4月
2年の歳月の流れを思わずにはいられません。

と言うことで、
レヴァイン盤CDは手放して、DVDを手元に残したままになりました。

ゆきさんは、モーツァルトだけではなく、ワーグナーも聴くんですね。

>Hildegard Behrens について
>そこで「ワルキューレ」の収録の時期を確認してみました。
>・サヴァリッシュ盤 :1989年11月
>・レヴァイン盤CD :1987年 4月
>・レヴァイン盤DVD:1989年 4月
>2年の歳月の流れを思わずにはいられません。

ということは、87年より89年のほうが、充実しているということですか。
ヒリデガルト・ベーレンスは、1937年生まれなので、1989年で、もう52才ですね。そのころが頂点だったのでしょう。この人は、ドイツから名誉ある勲章みたいなものを貰っているようです。(ドイツ連邦共和国功労勲章)

下記は、おそらく、レヴァインの「指輪」のDVD(あるいはCD)でグラミー賞をもらったのでしょうか。
1990 Grammy Award for Best Opera Recording: Richard Wagner's Die Walküre, with the Metropolitan Opera Orchestra
( http://en.wikipedia.org/wiki/Hildegard_Behrens )

ウィキペディアを見ると「2009年8月、草津国際音楽アカデミー&フェスティバルに出演する為に来日していたが、8月17日から体調不良を訴え東京都港区の病院に入院していた処、8月18日に動脈瘤破裂などにより死去。72歳没。」
生涯現役だったんですね。

こんばんは。
1983年のバイロイト音楽祭でブリュンヒルデ役を絶賛されたそうですから、単に熟成だけではなく、
また歳月の流れだけではなく、その時の声の調子(体調)があったのかも知れませんね。
私にはDVD盤の方が、無理なく声が出せているように感じて聴きやすかったです。
なぜ、CD盤がDVD盤と収録時期が違うのかは分かりませんが、
このDVD盤はオーソドックスな演出と言う意味も含めて貴重です。

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