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2008年5月15日 (木)

グールドのベートーヴェン:ピアノ・ソナタを聴く(3)

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番ホ長調作品109 第3楽章 第4変奏(midi

Beethoven_109_3_4

「グールドはコロンビアとの契約で、二年間に三枚のレコードを制作しなければならなかった。二枚目として選んだのは、どうしても譲らなかったあの《ゴルトベルク変奏曲》にも劣らない大胆な作品だった。そしてこれはまた大きな誤算でもあった。1956年の2月、グールドはニューヨークに行き、ベートーヴェンの最後の三つのソナタ --- 第30番ホ長調作品109、第31番イ長調作品110、第32番ハ短調作品111 --- の録音を始めたのだが、これらはどれもみなきわめて深遠で、かつまた美しく、そして複雑な曲だった。当時、誰であれ、この三曲のうちどれでも、リサイタルのやま場で弾くのは相当大胆なことだと思われていたし、かなりの円熟の域に達していない、ピアニストがこれらの大曲を人前で演奏するなど、身のほど知らずだ。そう考える批評家もいた。
 グールドは作品109を何度も弾いたことがあり、残りの二曲はめったに弾かなかったのだが、この三曲に対する彼の構想は、いくらか極度に非正統的なアイデアを伴っていた。作品109の演奏のほとんどの部分は見事だったのだが、終楽章の美しい変奏に入り込んだところで、グールドはベートーヴェンの書いたものに背いた。ただ解釈を誤ったのではない。背いた、のである。それが顕著なのは第四変奏の出だしで、そこには、Un poco meno andante ciò è un poco più adagio come il tema で演奏するように、とベートーヴェンが注意深く記している。当時のベートーヴェンは愛国心に燃えていたせいで、同じことをドイツ語で Etwas langsamer als das Thema と書き添えてさえいる。すなわち「主題よりいくぶん遅めに」という意味で、この主題はアンダンテである。この美しい変奏は、ヴィヴァーチェの第三変奏と、厳格な対位法で作られたアレグロの第五変奏とにはさまれていることからすれば、ベートーヴェンはこの変奏のもつ見事な静けさの中にコントラストを強調したかったことは明白である。ところが、楽譜に書かれた作曲者の意向を無視して、グールドは凄まじいスピードでこの変奏を弾き、軽薄で、表面的で、派手なものにしてしまったのである。(オットー・フリードリック著『グレン・グールドの生涯』119ページより)」

上記フリードリックの前半の指摘はあたらないと思う。ポリーニやポゴレリチもグールドと同じようなことをやったのだから..。

後半は、正しい評価だと思う。アンダンテを四分音符=72として、それより「いくぶん遅い」四分音符=69で演奏すると、midiのテンポになる。このテンポが正しい演奏であろう。もし仮に、第3楽章冒頭のテーマを「四分音符=72」より速く演奏したとしても(グールドはそうしている)、そのテンポより相対的に遅く、または、同じテンポか、百歩譲ってもほんの少しだけ速く演奏すべきであろう。それに対し、グールドが演奏した第4変奏の速すぎるテンポはまったく無意味である。それどころか、馬鹿げていると言ってもいいと思う。何のために第5変奏の難しいパッセージを克服したのか分からない。

第1楽章
グールドは官能的な演奏をしている。
再現部、アダージョの第2主題を強調し、明確にした意図は、この楽章の演奏の一つのモデルである。コーダへの処理もうまい。

第2楽章の速いテンポは問題ない。プレスティッシモなのだから..。

ではなぜ、第3楽章は前二楽章をぶちこわしにするような演奏をしたのだろうか。詳しく見てみる。

グールドはテーマを速いテンポで奏し、テーマおよび変奏のリピートを省いてる。したがって、音楽は速いテンポで進んでいく。第3変奏ヴィヴァーチェでは豪快な演奏を聴かせる。そこまでは何の問題もない。なぜ、彼は第4変奏を急いだのか? グールドは最終第6変奏を最大の聴かせどころとして、そこまで一気に走り抜けたかったのか。

「最後の第6変奏テンポ・プリモ・デル・テーマはまず4分の3拍子で主題が内声に歌われ、つぎに8分の9拍子に変わって音符は細やかになり、それがやがてトリラーにまで崩れてゆくが、主題はその間姿を隠したり、あるいははるか遠くに舞い散ってゆくかのように高音域に点綴(てんてい)される(作曲家別名曲解説ライブラリー3 ベートーヴェンより)。」主題が「高音域に点綴される」この部分はステレオ録音でも、三つの声がよく聞こえない演奏があるのに対し、グールドは、その三声を明確に示し、これまた山場を官能的に表出することに成功している。しかし、第4変奏を急がなくても、この第6変奏は十分に官能的であったろう。むしろ第4変奏を指定されたテンポで演奏していれば、第6変奏はもっと官能を増したかも知れないと思うと、それが悔やまれる。

グールドのベートーヴェン:ピアノ・ソナタを聴く(4)につづく

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