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2007年9月21日 (金)

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲聴き比べ(5)

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調 K219

1.第1楽章、オケによる提示部(midi

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2.第1楽章、ヴァイオリンソロによる提示部の序奏(midi

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3.第1楽章、ヴァイオリンソロによる提示部の出だし(midi

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K219は「一連の作品(ヴァイオリン協奏曲)の最後のものにふさわしく、堂々とした規模をもった作品である」などと評されるが、私は、K218以前の作品の方が好きだし、面白いと思う。たしかに、このイ長調のヴァイオリン協奏曲は、第1楽章、オケによる提示部のあと、いきなりアダージョに減速して、ヴァイオリンソロによる序奏(譜例2)をもつのは斬新。また第1楽章、ヴァイオリンソロによる提示部は、オケによる提示部に乗っかって奏される「レオノーレ序曲第3番」を思わせる旋律(譜例3)も斬新。それらは、K218以前の作品にない新機軸だ。しかし私は、この作品に、それほど強いインパクトを感じない。モーツァルトは、K218以前で、すでにアイデアを出し尽くし、最後は、使い残しのアイデアを使ったと感じる。そういう私の印象を払拭する演奏はあるかどうかを期待しつつ...。

・アルテュール・グリュミオー/コリン・デイヴィス指揮/Lso
第5番 イ長調 K219(61年録音)
(カデンツァ:ヨーゼフ・ヨアヒム、アルテュール・グリュミオー)
1. Allegro aperto 9'13"
2. Adagio 9'39"
3. Rondeau(Tempo di menuetto) 8'03"

海老澤敏氏によると「(K219は)先立つ4曲と同じ系列の属していることは、全体からなお感じとられるフランスの影響によって確かめることができるが、しかし、それとともに、ドイツ的色彩も、しだいに濃くなってきつつある点も注目される」と書いている。海老澤氏が指摘するドイツ的色彩とは、たとえば、第1楽章の展開部の簡潔さだと思う。その簡潔さはグリュミオーのエレガントだけでは対応できなかったかも知れない。それを、コリン・デイヴィスの指揮がカバーしているように思う。

・アイザック・スターン/ジョージ・セル指揮/コロンビア交響楽団
第5番 イ長調 K219(63年録音)
(カデンツァ:ヨーゼフ・ヨアヒム)
1. Allegro aperto 8'46"
2. Adagio 10'51"
3. Rondeau(Tempo di menuetto) 8'45"

セルの指揮は、K207ほどは良くない。第1楽章「ヴァイオリンソロによる序奏」は歌舞伎の見得(みえ)のようにカッコいい音楽だ。スターンの「見得」はたっぷりして素晴らしい。しかし、その後のスターンの音楽(第2,3楽章を含め)は「素晴らしい見得」と見合うのか、整合性はあるのかないのか分からない。

・ヴォルフガング・シュナイダーハン(ヴァイオリン、指揮)Bpo
第5番 イ長調 K219(68年頃録音)
(カデンツァ:ヴォルフガング・シュナイダーハン)
1. Allegro aperto 9'08"
2. Adagio 10'20"
3. Rondeau(Tempo di menuetto) 8'40"

この人の演奏を聴いていて気づいたことがある。第2楽章第85小節再現部で主題がカノンで始まることだ(下記、midi)。

K219_2

・ダヴィッド・オイストラフ(ヴァイオリン、指揮)Bpo
第5番 イ長調 K219(70年録音)
(カデンツァ:ヨーゼフ・ヨアヒム)
1. Allegro aperto 9'39"
2. Adagio 11'11"
3. Rondeau(Tempo di menuetto) 9'38"

K218(第4番)ではオイストラフ本領発揮かと見えたが、K219で、またピンと来なくなった。

・ヨゼフ・スーク/プラハ室内管弦楽団
第5番 イ長調 K219(70年録音)
(Kadenzen nach Germann, Badura-Skoda von Josef Suk)
1. Allegro aperto 9'39"
2. Adagio 10'57"
3. Rondeau(Tempo di menuetto) 9'59"

私は主観だけで感想を書いているつもりはないし、その時の気分で音楽が良く聞こえたり聞こえなかったり、音楽に惹かれたり惹かれなかったりすることはないと思うのだけど、スークの演奏は、結果的に、良く聞こえたり、何も感じなかったりする。

私の身体は、スークのK219の真摯で、端正で、しかも力強い演奏をすんなり心地よく受け入れる。あるいは、この作品の性格が本来、虚飾を廃した、ある種の単純さを持ち、それがスークに合ってるのかも知れない。

・アンネ=ゾフィー・ムター/カラヤン指揮/Bpo
第5番 イ長調 K219(78年録音)
(カデンツァ:ヨーゼフ・ヨアヒム)
1. Allegro aperto 10'41"
2. Adagio 10'45"
3. Rondeau(Tempo di menuetto) 9'20"

ほかでもないカラヤンのモーツァルト。

・イツァーク・パールマン/ジェイムズ・レヴァイン指揮/Vpo
第5番 イ長調 K219(82年録音)
1. Allegro aperto(カデンツァ:イツァーク・パールマン)9'29"
2. Adagio(カデンツァ:イツァーク・パールマン)10'56"
3. Rondeau(Tempo di menuetto)(カデンツァ:ヨーゼフ・ヨアヒム)8'54"

第2楽章は、美音を生かしたソフトな耳触り。パールマンの音が古風に聞こえる。第1楽章の自作カデンツァは面白い。

パールマンの第1楽章を聴いていて目立った場所があったので譜例を書いてみた。パールマンは下記青線のフォルテを強調している。下記譜例(midi)は第1楽章再現部であるが提示部との違いを対比するために、あえて再現部の譜例を作った。緑線の旋律は「オケによる提示部」の第11-13小節の旋律である。

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・ギドン・クレーメル/アーノンクール指揮/Vpo
第5番 イ長調 K219(87年録音)
(カデンツァ:ロバート・D・レヴィン)
1. Allegro aperto 9'05"
2. Adagio 9'53"
3. Rondeau(Tempo di menuetto) 8'55"

アーノンクールの指揮、クレーメルの独奏、いずれも音楽の流れに対して反応がいい。ディテールに目が行き届いている。それでも作品の魅力を100%引き出す所までには至ってない気がする。音楽を、上手くまとめ上げようとする意図が目立ち、大胆さがないと思う。足りないものは色つや、コントラスト、陰影、作品全体を見通せる手掛かり..。

・オーギュスタン・デュメイ(ヴァイオリン、指揮)
第5番 イ長調 K219(96年録音)
1. Allegro aperto 10'02"
2. Adagio(カデンツァ:ヨーゼフ・ヨアヒム)9'33"
3. Rondeau(Tempo di menuetto) 8'44"

デュメイの演奏は乱暴にも思えるように大胆でありながら知的端正さを持つ。その美音、壮麗は説得力を持つ。私の好みではないが、K219のベストであろう。

下記(第1楽章再現部第200小節のカデンツァの前、midi)は、提示部の同じ部分とは音程(調性?)が違う。ココはカデンツァへの導入部分である。すなわちデュメイの場合、技巧的カデンツァへと導く重要な部分であろう。

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・ジュリアーノ・カルミニョーラ/Carlo de Martini/Il Quartettone
第5番 イ長調 K219(97年録音)
1. Allegro aperto 9'36"
2. Adagio 10'01"
3. Rondeau(Tempo di menuetto) 8'51"

カルミニョーラのバロック風奏法は第3楽章の「トルコ行進曲」に合っている。彼の「歌と華」があるテンポ・ディ・メヌエットは、もしかしたら、この楽章に対する私のイメージに最も合う演奏である。

・アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン、指揮)Lpo
第5番 イ長調 K219(05年録音)
(カデンツァ:ヨーゼフ・ヨアヒム)
1. Allegro aperto 9'13"
2. Adagio 9'39"
3. Rondeau(Tempo di menuetto) 8'03"

第1楽章は「序奏アダージョ」におけるムター的ナルシズムが美しい。オケが室内楽的に響く(各パート1名で演奏させている)。32部音符のさざ波が美しい(私はムターの指揮は下手と書いたが、K219では面白いサウンドを聴かせてくれる)。第1楽章のヨアヒムによるカデンツァがよい。ただ、例の「ムター節」が「型にはまったように」聞こえてしまうのが傷(第1楽章)。第3楽章は、ストレートな演奏。しかも出だしの室内楽的にこざっぱりしたサウンドが、音楽に変化を持たせていてポイント高いと思う。

・ユリア・フィッシャー/ヤコフ・クライツベルク指揮/Netherlands Chamber Orchestra
第5番 イ長調 K219(06年録音)
(カデンツァ:ユリア・フィッシャー、ヤコフ・クライツベルク)
1. Allegro aperto 9'30"
2. Adagio 11'36"
3. Rondeau(Tempo di menuetto) 8'44"

ストレートで若々しく力強くゴージャスな演奏。若さ故の未熟も感じられるが、私の嗜好からすればこれがベストかな..と思ったが、やはり深みがないので満足できない。

・まとめ
1番はスターン、スーク、クレーメル。2番はムター。3番はスターン、パールマン。4番はムター、スターン。5番はデュメイがよい。平均的にはグリュミオーがよい。したがって今回聴き比べた11種の中でお薦めは、無難なグリュミオー。新しい録音では、ムター盤を薦めることができる(ただし、第3番に違和感を感じなければ)。

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