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2007年9月 5日 (水)

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲聴き比べ(2)

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第2番 ニ長調 K211

K211はK207より洗練された作品であり「単純な構造」をもつが「モーツァルトの先輩作曲家の様式とモーツァルトの様式との折衷(K207)」ではなく「第1楽章の行進曲、第2,3楽章の優美、ギャラント」といったモーツァルトのオリジナリティが魅力の作品..と私は捕らえている。いろいろ譜例を作った。あまり意味なさそうなものもあるが、せっかく作ったのでアップロードする。

第1楽章 オケによる提示部(midi)。私は青で示した旋律が好きだ。これは、モーツァルトのオペラアリアに出てきそうなフレーズ。「作曲家別名曲解説ライブラリー」にはK211について「第1作(K207)とは、性格の上でだいぶ異なったものをもっており、フランス的な、優美な、ギャラント・スタイルをつよく示している。しかし、たとえばソロとトゥッティの図式的な交替、あるいはほとんど重要な役割を与えられていない管楽器パートなどにみられるように、第1作にくらべても、なおいっそう単純な構造をもち、したがって、その後も、「第3番」からしだいに複雑さを加えていくこのジャンルにあっては、最も問題の少ない作品だといえよう。」とある。その「優美な、ギャラント・スタイル」のひとつが青で示した旋律かも知れない。上の文章は海老澤敏氏のものだが、K211の性格を的確に表していると思う。それから私は、この第1楽章は8拍子の行進曲のように聞こえる。

K211_1

下記はヴァイオリンソロによる提示部の一部(midi)。3オクターブの下降がある。

K211_1_3

そのあと、下記(midi)もまた「優美な、ギャラント・スタイル」に始まり、三連符の華麗な挿入句、第2主題に乗っかったヴァイオリンソロの持続音。

K211_2

展開部冒頭 ヴァイオリンソロ(midi

K211_1_2

再現部前(midi)。デュナーミクが細かく指定されている。海老澤敏氏によると「(第1主題のはじめに)みられるような強弱の図式的な対比は、またこの楽章全体を通じる特徴である。」とあるが、下記もその一例であろう。

K211_1_5

カデンツァまえの速いフレーズ(midi)。これを聴くと私は何故か、むかしテレビでやってた漫画「ポパイ」のテーマソングを思い出す。

K211_1_4

以下、演奏の聴き比べ。

・ジュリアーノ・カルミニョーラ/Carlo de Martini/Il Quartettone(97年録音)
第2番 ニ長調 K211
1. Allegro moderato 8'25"
2. Andante 6'44"
3. Rondeau(Allegro) 4'14"

この盤は、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが、対向配置になっているが、その二つが左右のチャンネルからはっきり分かれて聞こえる。それがサウンド的には面白い(特に第1Vnと第2Vnの掛け合い)。カルミニョーラのK211はK207同様、小編成による軽いノリと小振りなピリオド奏法が、作品の性格をうまく表している。秀演。

・アイザック・スターン/アレキサンダー・シュナイダー指揮/イギリス室内管弦楽団
第2番 ニ長調 K211(76年録音)
(カデンツァ:Ferdinand Küchler)
1. Allegro moderato 8'25"
2. Andante 8'07"
3. Rondeau(Allegro) 4'31"

指揮者がジョージ・セルじゃなく、アレキサンダー・シュナイダー。録音年はK207(1961年)の15年後の1976年。スターンの特徴である適度なアクの強さ(?)が何故か面白くない。第2楽章は退屈する。第3楽章も特に面白くなく、凡演といっていいだろう。

・ヴォルフガング・シュナイダーハン(ヴァイオリン、指揮)Bpo(68年頃録音)
(カデンツァ:ヴォルフガング・シュナイダーハン)
第2番 ニ長調 K211
1. Allegro moderato 7'53"
2. Andante 5'59"
3. Rondeau(Allegro) 4'13"

全楽章テンポが速い。第1楽章は、きびきびした演奏。そういう演奏にあっても、ヴィブラートの効いた美音を聞かせるのは、ウィーン風ということか。K207と同様、カデンツァは派手。私は、K211の第2楽章には、優美さだけでなく、ベートーヴェンの「ロマンス」のように雄大さというかスケールの大きさを期待したりする。シュナイダーハンにそれを期待したが、それはなかった。

・イツァーク・パールマン/ジェイムズ・レヴァイン指揮/Vpo
第2番 ニ長調 K211(85年録音)
(カデンツァ:イツァーク・パールマン)
1. Allegro moderato 8'09"
2. Andante 7'26"
3. Rondeau(Allegro) 4'04"

模範的演奏であるが私の嗜好にあわない。

・アルテュール・グリュミオー/コリン・デイヴィス指揮/Lso
第2番 ニ長調 K211(64年録音)
(カデンツァ:アルテュール・グリュミオー)
1. Allegro moderato 8'13"
2. Andante 6'29"
3. Rondeau(Allegro) 3'54"

グリュミオーの「モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲」の良さは、一度聴いただけでは分からなかった。しかし、数回聴くと、この録音が高く評価されている理由が分かる。その理由とは、ツボを押さえた演奏。すなわち(たとえば上記譜例に示したような)ソロヴァイオリンの特徴的フレーズを、他の演奏者の演奏では意識して聞かないと聞き逃してしまうことがあるのに対し、グリュミオーの演奏においては、意識せずとも、それが耳に入ってくる感じ。彼の演奏には過度な表現なし。フレーズに対する独特なバランス感覚あり。「バランス感覚」とは、抽象的表現になるが、あえていえば、モーツァルトの音楽の演奏において、重心の置き方が上手い。どこに重心を置いたらいいか分かっているということになると思う。それから、指揮者コリン・デイヴィスのサポートはグリュミオーの好演に大いに貢献している。

・ダヴィッド・オイストラフ(ヴァイオリン、指揮)Bpo
第2番 ニ長調 K211(71年録音)
(カデンツァ:オイストラフ)
1. Allegro moderato 8'12"
2. Andante 7'48"
3. Rondeau(Allegro) 4'50"

オイストラフのK211は、グリュミオー/デイヴィス盤に比べれば随分粗い。しかし彼のK211はK207に比べれば、ストレートな表現が生きており、各楽章のバランス、流れが良く、K207に比較して安定している。特に第2楽章はよく歌っており、古臭い音色ながら味がある。

・ヨゼフ・スーク/プラハ室内管弦楽団(71年録音)
(カデンツァ:Marteau)
1. Allegro moderato 8'15"
2. Andante 7'35"
3. Rondeau(Allegro) 4'30"

第1楽章のゆっくりしたステップ(行進曲の)。第2楽章はこれまたゆったりしたテンポに、どっぷり浸れる。アンダンテをこんなに遅く演奏するのはベームぐらいでしょうね。第3楽章は輪郭をはっきりさせた、こざっぱりしたロンド。スークの演奏は古臭いが明晰。

・アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン、指揮)Lpo(05年録音)
第2番 ニ長調 K211
(カデンツァ:Zino Francescatti)
1. Allegro moderato 8'21"
2. Andante 7'01"
3. Rondeau(Allegro) 3'51"

「K211の第1楽章は行進曲じゃないのか?」と私が思ったのはムターの演奏を聴いたときだった。彼女の演奏(第1楽章)は、実際に人間が行進するには速すぎるテンポ(つまり速いテンポ)で演奏されているが、かえってそれが「行進曲」を感じさせる。それに急に早弾きしたり遅く弾いたりするリズム感は心地よい(第1楽章)。第3楽章ロンドのリズム感も同様に心地よい。全楽章において、いかにもムターらしく、スコアにある音を、より際だたせようとするスタンスが聴かれる。たとえば第1楽章、第2主題前の三連符(上記上から三番目の譜例)は和音2+1で弾いているように聞こえる。また、下記、第2楽章第2主題にあたると思われる部分は、なまめかしさが良い(midi)。

K211_2_1

その他、ムター的なポルタメント、ノンヴィブラート、ルバート的じゃないルバート、気まぐれなデュナーミク、変な節回しが、この作品では生きていると思う。

・ユリア・フィッシャー/ヤコフ・クライツベルク指揮/Netherlands Chamber Orchestra
第2番 ニ長調 K211(06年録音)
(カデンツァ:ユリア・フィッシャー、ヤコフ・クライツベルク)
1. Allegro moderato 7'57"
2. Andante 7'23"
3. Rondeau(Allegro) 3'57"
Pieter-Jan Belder(チェンバロ)

ムター盤を聴いて思ったが、K211は、女性的性格をもつ作品が多いモーツァルトの作品にあっては男性的性格をもつ作品ではなかろうか。フィッシャー/クライツベルクの解釈もまた男性的端正さを感じさせる。第1楽章はスコアのデュナーミクに(おそらく)忠実、アーティキュレーションもスコアに忠実、かつテンポの速い軽快な演奏。しかし第2,3楽章は、ベテラン、ムターの色気が、若いフィッシャーより一枚か二枚上をいくだろう。フィッシャーの演奏ではモーツァルトに酔えない。正確な奏法と美しい音だけでは「モーツァルトに酔えない」というのは不思議。

・ギドン・クレーメル/アーノンクール指揮/Vpo
第2番 ニ長調 K211(84年録音)
1. Allegro moderato(カデンツァ:ロバート・D・レヴィン)8'04"
2. Andante(カデンツァ:ロバート・D・レヴィン)7'05"
3. Rondeau(Allegro)(カデンツァ:ギドン・クレーメル)4'30"

ギドン・クレーメル/アーノンクールのK207は素晴らしいが、K211は良くない。クレーメルのヴァイオリンが大人しい...というか音量が小さく聞こえるのは、クレーメルが、終始アーノンクールのあとをつけているからなのか、同じことだが、クレーメルが終始アーノンクールをつけているからクレーメルのヴァイオリンが大人しく聞こえるのか。いずれにしても、少なくとも彼らの第1,2楽章の演奏を聴く限り、あたかも二人はK211を「オケが主、ソロヴァイオリンが従」と捕らえたかに聞こえる。実際は、そんな「共通理解」は二人のあいだに存在しなかったであろうが、もしそうだとしても、この演奏においては二人の個性が触発しあっていない。不完全燃焼。その結果、作品が語られていない。

・オーギュスタン・デュメイ(ヴァイオリン、指揮)
カメラータ・アカデミカ・ザルツブルク
第2番 ニ長調 K211(2000年録音)
(カデンツァ:不明)
1. Allegro moderato 8'16"
2. Andante 6'58"
3. Rondeau(Allegro) 4'35"

私は、ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ全集を数多く聴いたが、気に入ってるのは、オイストラフ盤とデュメイ/ピリス盤だけだ。したがって、デュメイは好きなヴァイオリニストの一人だ。しかし、この録音は変だ。グリュミオーに比べ芸が細かすぎ、ムター比べ身振り手振りが大きすぎる。そのため下品に聞こえる。第2楽章のピアニッシモは音量が小さすぎてコンサートホールでは実現不可能な演奏、第1,3楽章がリズミックじゃないのは致命的..と貶そうと思ったが、この演奏には、K207からK216へと向かうモーツァルトのプロセスがよく表れていると思う。K207第1楽章は基本的に「シラソファミレドシ」の下降音階で始まる。K211第1楽章は「レラファレ」すなわちハ調でいえば「ドミソド」を逆に下降する「ドソミド」の旋律で始まる。これら単純な旋律はK216以降ためのモーツァルトの肩慣らしだったのかも知れない。したがって、K211をモーツァルトの大作前の「前触れ」として捕らえるなら、デュメイの節度のない、そしていささかトリッキーな表現が合うのかも知れない。

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