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2007年4月 3日 (火)

《コシ・ファン・トゥッテ》聴きくらべ(2)

[つづき]
まず、1から4(つまりベーム盤)について書きます。

ベームは《コシ・ファン・トゥッテ》を余程気に入っていたし思い入れもあったのでしょう。1から4の録音以外にも「1954 Salzburg」「Sro ('49)」というのがあります。公式盤は1,2,4でしょうね。「Sro ('49)」はスイス・ロマンドのことでしょうが、こういう珍しい盤が存在するということは、リスナーもベームの《コシ・ファン・トゥッテ》が好きということになりましょうね。

ムーティ/アナログ盤のリーフレットによると、ザルツブルク音楽祭における《コシ》の上演記録は「指揮者を年度別に見ると、1922年のリヒャルト・シュトラウス(1)、ブルーノ・ワルター(1)、ヨーゼフ・クリップ(1)、フェリックス・ワインガルトナー(2)、小澤征爾(2)、クレメンス・クラウス(4)に対してカール・ベームが18シーズンにわたって指揮している。しかも、1953-65、1972-77年(1955年欠)の長期連続であった。」とあります。ひとつの音楽祭で同じ演目を同じ指揮者が18シーズンもやるというのはギネスもんかも知れませんネ。

さて、私が持ってる《コシ・ファン・トゥッテ》ベーム盤、4つについて書きます。1については、ステレオ初期DECCAの名録音のひとつであるから、お持ちの方も多いと思います。DECCAの初期ステレオ録音では、E.クライバーの《フィガロ》55年録音盤が有名です。同じ55年録音のベーム《コシ》はクライバーの《フィガロ》ほどの聴き応えはありません。クライバーのほうが冴えてると思います。DECCAも、あまり過激な《コシ》を望まなかったということがあるかも知れません。この盤の魅力は美声、アンサンブルと品の良さです。

2は、シュワルツコップを起用したことにより(それだけではないでしょうが)、1より、ずっと表現が強く思えます。デラ・カーザは《元帥夫人》カラヤン指揮/1960年/ザルツブルクライヴではシュワルツコップと、いい勝負だと思いますが、フィオルディリージでは負けていると思います。というか、シュワルツコップのフィオルディリージは「役になりきる」という意味で理想的で、おそらく後の演奏の手本になったでしょう。ドンナ・エルヴィーラを思わせるアリア第14番《Come scoglio 岩が動かないように》は、デラ・カーザも面白く歌っていますが、葛藤のロンド第25番《Per pieta お願い許して恋人よ》陥落の二重唱第29番《Fra gli amplessi in pochi istanti すぐにも参りましょう》は、シュワルツコップの方が表現者として優れていると思います。ベームの指揮も、DECCA盤よりEMI盤の方が緻密で力強いように思いますが、いかがでしょうか。

3は正規盤ではありません。72年ザルツブルク・ライヴです。これはステレオなのかモノーラルなのかわからない悪い録音で、演奏も良くないです。さすがのベームもザルツブルク音楽祭における《コシ・ファン・トゥッテ》シーズン初年度は調子が出なかったのでしょうね。74年正規盤が完璧なのに比べ初年度72年は悪いです(たとえ前者がおそらく編集されているであろう正規盤で、後者は半ば海賊盤だとしても...)。ということは、オペラが初年度からうまくいくのは難しいという例を見るようです。そういう意味でオペラは怖いです。

配役はディースカウのドン・アルフォンソを期待したのですがだめでした。パネライの方がいいです。第一幕の冒頭から、シュライアー、プライ、ディースカウが出てくるというのは迫力あるんですが、なんだか、名人が集まりすぎて、うるさいという気がします。それにしても、この盤(72年)のメンバーはすごいですね(グンドラ・ヤノヴィッツ/ブリギッテ・ファスベンダー/シュライアー/プライ/ディースカウ)。バッハのオラトリオも歌えそうです。第九交響曲なら一人余ります。実際、74年ザルツブルクライヴ盤の第1幕第11場のフェランド(シュライアー)、グリエルモ(プライ)の求愛のレチタティーヴォ"Amor.."はちょっとオラトリオっぽく聞こえます。

4の74年ザルツブルクライヴは「ヤノヴィッツがフィオルディリージの役柄をつかんだ」という気がします。ベームは、フィオルディリージ役には、常に、かなり強い要求をしたと思うのですが、ヤノヴィッツは74年になって、やっとその要求に応えたという気がします。繰り返しになりますが、72年盤は、レリ・グリスト以外は、歌手が浮き足立っている感じがします。ディースカウ、プライ、ヤノヴィッツは《フィガロ》68年スタジオ録音、シュライアーは《ドン・ジョヴァンニ》67年スタジオ録音で、ベーム指揮のもと歌ってます。しかし72年ザルツブルク《コシ・ファン・トゥッテ》は、それらと演目が違ううえに生演奏です。さらに、プライ、ヤノヴィッツ、シュライアー、ディースカウにとってベームとのザルツブルク共演は、もしかしたらこれが初体験だったかも知れません。それに対し、レリ・グリストは、ザルツブルクでベーム指揮のスザンナを歌っているので経験ありというところでしょうか。

74年のヤノヴィッツは、第14番《Come scoglio 岩が動かないように》第25番ロンド《Per pieta お願い許して恋人よ》は名唱なんですが、第29番フェランドとの二重唱《Fra gli amplessi in pochi istanti すぐにも参りましょう》で、シュワルツコップのように「ここぞとばかり」芝居してくれてたらよかったのにというのは私の主観です。勿論、第29番ヤノヴィッツの歌唱は決して悪くはありません。満足すべき歌唱かも知れませんね。

【結論】
1.ベーム指揮/VPO/リーザ・デラ・カーザ(フィオルディリージ)クリスタ・ルートヴィヒ(ドラベルラ)エミー・ローゼ(デスピーナ)アントン・デルモータ(フェランド)エーリヒ・クンツ(グリエルモ)パウル・シェフラー(ドン・アルフォンソ)1955年スタジオ録音/DECCA

2.ベーム指揮/PO/シュワルツコップ(フィオルディリージ)ルートヴィヒ(ドラベルラ)ハンニー・シュテフェック(デスピーナ)アルフレード・クラウス(フェランド)ジュゼッペ・タディ(グリエルモ)ワルター・ベリー(ドン・アルフォンソ)1962年スタジオ録音/EMI

4.ベーム指揮/VPO/グンドラ・ヤノヴィッツ(フィオルディリージ)ブリギッテ・ファスベンダー(ドラベルラ)レリ・グリスト(デスピーナ)シュライアー(フェランド)プライ(グリエルモ)ローランド・パネライ(ドン・アルフォンソ)1974年ザルツブルクライヴ録音/DG

《コシ・ファン・トゥッテ》をお好きな方なら、三つとも買っても損はないと思います。


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コメント

こんにちは。
何時も記事を楽しませていただいております。
私も”コシ”が好きでいろいろ聴き漁って来ましたが、KM さんご紹介の、
「1.ベーム指揮/VPO/リーザ・デラ・カーザ(フィオルディリージ)クリスタ・ルートヴィヒ(ドラベルラ)エミー・ローゼ(デスピーナ)アントン・デルモータ(フェランド)エーリヒ・クンツ(グリエルモ)パウル・シェフラー(ドン・アルフォンソ)1955年録音/DECCA」盤が一番好みです。
ところで、このDECCA版の2枚目の4/16トラック曲の終りがモノラルになっているように聴こえるのですが、KMさんの盤はいかがでしょうか。 
私が持っているのは日本版のポリドール発売POCL-3810/1です。
ずっと気になっていましたので、この場をお借りして訊いてみました。

ゆき様

変な話で恐縮ですが、私は一昨年(2009年)12月に火災に遭い、家が全焼し、《コシ・ファン・トゥッテ》DECCA 盤 POCL-3810/1 を焼失しました。その後、これを再取得していません。したがって、正確なことは言えませんが、たしか、この POCL-3810/1 は、デッカの正規盤であり、当時、デッカのステレオ録音技術が、すぐれていたことから推察しても、一部のトラックがモノラルになることは、ないと思うのですが、商品として、出荷されたものにはいろいろ瑕疵(きず)がある場合があるので、もしかしたら、ご指摘のように、POCL-3810/1 に、何らかの瑕疵があるかも知れません。

ところで、DECCA版の2枚目の4/16って、どの部分ですか?

KMさん、返信ありがとうございます。そう言えば火災に遭われたご経験を語っておられましたね。失礼いたしました。遅ればせながら被災をお見舞い申し上げます。
《コシ・ファン・トゥッテ》DECCA 盤 POCL-3810/1の2枚目の4/16トラックの全てがモノラルになっているのではなく、ほんの最後の最後の一部分です。
2枚目は16トラックありますが、その4トラック目です。手元に歌詞がないのでどの部分かは今はお示しできませんが、4トラック目の最後がモノラルになり・・あっ、もう一度聴いてみるとモノラルと言うよりは片方だけ(左チャンネルだけ?)になっているように感じます。少しブーンといううなりのような音も入って演奏が終わります。
後で発売元の日本ポリドールに聞いて見ようかと思っているところです。

KMさん
発売元の日本ポリドール(現ユニバーサルミュージック)に聞いた結果が分かりました。
「もともとDECCAのマスター原盤にある物理的なダメージ」だそうです。私の再生装置のせいでは無かったのでほっとしました。これで安心して聴くことが出来ます。取り急ぎご報告まで。

> 発売元の日本ポリドール(現ユニバーサルミュージック)に聞いた結果が
> 分かりました。「もともとDECCAのマスター原盤にある物理的なダ
> メージ」だそうです。

これは貴重な情報だと思います。

リーザ・デラ・カーザ(フィオルディリージ)を聴きたくなりました。

まさか私がこの録音の部分ダメージの第一発見リスナーだったとは・・(笑)
他に気付かれた方の情報も欲しいところです。
ざっとネットでも検索してみましたが、この件に関するものはヒットしませんでした。
そう言えばEMI盤だったかDG盤だったか忘れましたが、ベームの意向で兵隊さんの合唱の部分?がモノラル録音になっているものがあったような・・(手離したので今は手元にありません)。

ゆき様

>ベームの意向で兵隊さんの合唱の部分?がモノラル録音になっているものがあったような

それは、ベーム指揮/PO/シュワルツコップ(フィオルディリージ)1962年スタジオ録音/EMI です。

ベームの意向だったのですか。お詳しいですね。

>ベームの意向だったのですか。お詳しいですね。
確か、添付の解説書か何かに書いてあったような記憶があります。
指揮者のこだわりをあれこれ聴きながら推察するのも楽しいものですね。

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