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2007年3月17日 (土)

ハーゲン四重奏団のモーツァルト:弦楽四重奏曲全集

Mozart_hagen

ハーゲン四重奏団のモーツァルト:弦楽四重奏曲全集
 
 まず、忘れないうちに書いておきたいが、このBOXは、デジタルな音ではあるが録音はいいと思う。ヘッドフォンを左右逆にして、私の良く聞こえる方の右耳で聴くと、ルーカス・ハーゲン(第1ヴァイオリン)の音は心地よい。

私は、ハーゲン四重奏団による《モーツァルト:弦楽四重奏曲全集》には、大いに期待していた。なぜなら、彼らによるハイドンの《太陽四重奏曲 作品20》が、あまりにも素晴らしすぎる演奏だったからだ。しかし、この《モーツァルト:弦楽四重奏曲全集》で、ハーゲン四重奏団は、ちょっと難しい演奏をしてしまっているきらいがある。

まず、モーツァルト:弦楽四重奏曲のおさらいをしておく:

[作品リスト]
1番 K80(73f) ト長調 1770年《ローディ》

ミラノ四重奏曲(6曲)
2番 K155(134a) ニ長調 1772年
3番 K156(134b) ト長調 1772年
4番 K157 ハ長調 1773年
5番 K158 ヘ長調 1773年
6番 K159 変ロ長調 1773年
7番 K160(159a) 変ホ長調 1773年

ウィーン四重奏曲(6曲)
8番 K168 ヘ長調 1773年
9番 K169 イ長調 1773年
10番 K170 ハ長調 1773年
11番 K171 変ホ長調 1773年
12番 K172 変ロ長調 1773年
13番 K173 ニ短調 1773年

ハイドン四重奏曲(6曲)
14番 K387 ト長調 1782年
15番 K421(417b) ニ短調 1783年
16番 K428(421b) 変ホ長調 1783年
17番 K458 変ロ長調 1784年《狩》
18番 K464 イ長調 1785年
19番 K465 ハ長調 1785年《不協和音》

20番 K499 ニ長調 1786年《ホフマイスター》

プロシア王四重奏曲
21番 K575 ニ長調 1789年
22番 K589 変ロ長調 1790年
23番 K590 ヘ長調 1790年

そもそも、弦楽四重奏曲というジャンルを、ライフワークにした作曲家はヨーゼフ・ハイドンの他には、意外に少ないと思う。上記のように、モーツァルトの場合、最初の作品《ローディ》以降は、1772年から1773年にかけて、12曲を作曲している。その後、10年近く経てから、偉大な《ハイドン四重奏曲(ハイドン・セット)》を書いている。その後は、1786年の《ホフマイスター》と晩年の《プロシア王四重奏曲》の4曲のみ。これを見ると、断続的な創作に思える。したがって、弦楽四重奏曲はモーツァルトのライフワークだとは言えないだろう。モーツァルトのライフワークは、オペラとピアノ協奏曲だ。

ベートーヴェンにしても同様である。すなわち、皆さんよくご存じの通りベートーヴェンが書いた弦楽四重奏曲は:

6つの弦楽四重奏曲(作品18)1778-1780年
3曲の《ラズモフスキー》1805-1806年
《ハープ》1809年
《セリオーソ》1810年
そして晩年に、12番から16番までの5曲

合計16曲を書いたのだが、これを彼のライフワークといえるだろうか? 私見では、晩年、彼がこのジャンルを手がけた理由は「ピアノ・ソナタで言いたいことは全部言ってしまった」ので、最後の創作意欲の表現手段を、たまたまこのジャンルに見いだしたからだと思う。ベートーヴェンのライフワークは、ピアノ・ソナタと交響曲だ。

バルトークは、弦楽四重奏曲を彼のライフワークとした。ショスタコーヴィチはどうか。私は、それはよくわからない。ただ、ショスタコーヴィチは、このジャンルに対して、バルトークに近い情念を抱いたと思う。

横道にそれたが、上記をご覧になれば分かるとおり、モーツァルトの弦楽四重奏曲は、数にしてその約半分の13曲は、青年期の作品である。これらの作品に対する評価は、はっきり言って低い。《ウィーン四重奏曲》についてアーベルトは「われわれは、モーツァルトが偉大な模範(ハイドン)に対して、とまどいを感じ、注意深い仕事で、確信が欠けたものを補おうとしている印象を受ける」と述べ、アインシュタインは「非常にすっきりしない楽曲」「父親の命令のおかげで成立したのだと仮定したい」とも述べている。《ウィーン四重奏曲》は、たしかに充実した楽章を持つ作品はあるし労作と思える作品もなくはない。しかし名曲はない。最も重要な作品である「13番 K173 ニ短調」も、私にはぎこちなく思える。《ミラノ四重奏曲》もいまいちピンと来ない。むしろ、私は、モーツァルト14才の時の《ローディ》が、最初の13曲の中で一番好きだ。

さて、私が、ハーゲン四重奏団に期待したことは、それらの冴えない作品群《ミラノ四重奏曲》《ウィーン四重奏曲》の12曲を、彼らが、いかに魅力的に面白く弾いているか、そして私をピンと来させてくれるか、だった。しかし、その期待は裏切られた。はっきり言って、それは退屈する演奏。私は、それらの、いまいちパッとしない作品群こそ、ハーゲン四重奏団が得意とするところではないかと期待していたのだが…。

《ハイドン・セット》も面白くない。ハーゲン四重奏団の完璧主義が裏目に出ているように思える。表現についていえば、たとえば、彼らが《太陽》で聴かせたノンビブラートや絶妙な「間」が生きていない。もともと《太陽》で聴かせたようなノンビブラートや絶妙な「間」は《ハイドン・セット》には合わないのか? そんなことはなかろう。《太陽》で成功した表現が《ハイドン・セット》で成功しないということはなかろう。《ハイドン・セット》における、ハーゲン四重奏団の解釈は《太陽》の場合とは違うように思える。うまく言えないが、ハーゲン四重奏団のモーツァルトには、解釈に失敗があるようだ。従来の解釈とは違う解釈を聴かせてやろうという狙いが、的を射てないのではなかろうか(つまり、彼らは普通に安定感のある表現をすればよかったと思う)。

たしかに、ハーゲン四重奏団のモーツァルトBOXは、全体的に上手に演奏されていることは認めよう。しかし《ハイドンセット》に味がなく、《ミラノ四重奏曲》《ウィーン四重奏曲》も面白くない、という意味で、この全集は魅力に欠け、名盤とは言い難い。ハーゲン四重奏団は、がっぷり四つの相撲で勝負しても、完璧な演奏をできる団体だけに、このモーツァルトにおいては「ボタンの掛け違い」をしてしまったのではないだろうか。
それとも、私が、こう思うのは、新しいものについて行けない私の保守主義なのだろうか。
私は《ハーゲン四重奏団の新しいモーツァルト》を聴いて、満足できなかった。そして、私は、私を「保守的」だと思い、即、より保守的であろうアマデウス弦楽四重奏曲団による《モーツァルト:弦楽四重奏曲全集》を無性に聴きたくなり、早速注文してしまった。

【情報】

このBOX(ハーゲン四重奏団:モーツァルト全集)には、おまけとして、ディベルティメント(K136, 137,138)、アイネ・クライネ・ナハトムジーク、バッハの平均律第2巻から5つのフーガの編曲(K405)と、アダージョとフーガ(K546)が付いている。

この全集の録音年は、1988-2001年、および2004年(K589)である。

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