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2007年3月18日 (日)

ハーゲン四重奏団の《太陽四重奏曲》

Haydn_hagen


 ハイドンの《太陽四重奏曲》作品20は1772年に作曲されています。この作品をハイドンの弦楽四重奏曲の最高傑作と推す人もいます。モーツァルトが《ウィーン四重奏曲》の手本としたと言われる《太陽四重奏曲》をハーゲン四重奏団が録音しています(1992-93年/DG)。私は、この盤を通して、ハーゲン四重奏団に出会いそのとりこになりました。彼らは何事もないかのように、この作品を演奏しています。しかし、私は思います。この傑作にふさわしい演奏は非常に難しいと..。

以下、ハーゲンの演奏を聴きながら、第1曲から第6曲までを解説します。

・作品20-1 変ホ長調
すなわち《太陽四重奏曲》の1曲目
第1楽章展開部での第2ヴァイオリン、ヴィオラはノンビブラートっぽい。再現部の入りと再現部第2主題は「間」とまではいえなけど、力を緩めるのが「間」を入れているかように聞こえます。音量の微妙な調節は絶妙。とにかく、力の入れ方と緩め方およびテンポ感が、とてもうまいと感じます。第2楽章メヌエットも同様です(スミマセン。音楽用語知らないもんで表現拙いです)。第3楽章アッフェットゥオーソ・エ・ソステヌートは、ピリオド奏法では多分不可能であろう余韻があります。これはピリオド奏法に対する彼らのアンチテーゼかも知れません。第3楽章とは対照的な第4楽章プレストのスピード感と適度な力強さ。この1曲を聴いただけで、私はハーゲン四重奏団のファンになりました。

・作品20-2 ハ長調
第2楽章アダージョはハ短調。劇的な雰囲気の前半から、後半は変ホ長調に転調してカンタービレになります。その対照が絶妙でしかも、アタッカで第3楽章メヌエットに行くのもうまいし、更に第4楽章は8分の6拍子の軽快な4声フーガと流れがよいです。「これぞハイドンの魅力なり」と脱帽させられました。第4楽章のハーゲンの演奏は力まず煽らず、第3楽章まで流れの良さを途切れさせない適切な解釈です。なお《太陽四重奏曲》は、6曲中3曲は終楽章がフーガです。

・作品20-3 ト短調
第1楽章は「シュトゥルム・ウント・ドラング」の楽章。複雑な形式を持つロマン的音楽です。第2楽章のト短調メヌエットには、さぞ、モーツァルトもインスパイアされたことでしょう。ハーゲンの演奏は、この作品あたりから「間」の効果が聞こえるように思います(私はしきりに「間」と書いてますが、これはパウゼではなくて、感覚的な間、呼吸で生じる間です)。

・作品20-4 ニ長調
これまた不思議な音楽です。第1楽章は4分の3拍子で、アレグロ・ディ・モルトという速度指定が微妙です。ハイドン独特の「驚愕」の楽章です。第2楽章ウン・ポーコ・アダージョ・アッフェットゥオーソはニ短調、6曲中唯一の変奏曲の楽章で、ちょっと渋いですが美しい変奏曲です。ハーゲンの演奏で9分と長い楽章なのですが短く感じます。最終変奏が印象深いです。この第2楽章の深いエモーションの後、短いメヌエットと、プレスト・スケルツァンドの第4楽章という配置の妙がまたハイドンらしい。一方、モーツァルトは、K170の第1楽章で変奏曲をやってますが、4つの変奏に魅力なく、さっさと主題をダ・カーポして楽章を終わらせていて中途半端な印象を受けます。その辺がモーツァルトの「未熟」と指摘された理由でしょうか。

・作品20-5 ヘ短調
第3楽章の美しい旋律、第4楽章のフーガが印象的。第4楽章のフーガは、5度下がって6度上がって7度下がるという跳躍の主題と、同音反復の主題の二つの主題を持つのですが、私はこれを聴くと、モーツァルト作曲「レクイエム」のキリエのフーガに似てると思ってしまいます。以下長い引用になりますが

「(モーツァルトのウィーン四重奏曲)六曲の最後の曲ニ短調K173(第13番)は、ハイドンの第五曲ヘ短調をモデルにしてつくられたことは明らかだろう。フィナーレはともにフーガが使われている。ただ、このふたつの楽章を比べてみるとかなりの違いがあることも否めない。ハイドンのフーガはふたつあり、これが相互に関連づけられながら発展していくという手法をとっている。ひとつめのテーマは五度下がって六度あがり、七度下がる、という跳躍から始まり、今度は半音で下りてくるという音型で、とても緊張感に満ちている。ふたつのめのテーマは同音反復ではじまるこれまた緊張感のあるもので、最初のテーマに二小節遅れて入り、重ねられる。展開部ではふたつのテーマが複雑に入り組み、フーガの様々な技法が総動員されている。再現部ではオルゲルプンクトも使われ、緊張感と立体感に満ちた世界を造り上げている。これに対しモーツァルトの終楽章では、ハイドンのような複雑な技法は使われていない。テーマは一つで、後年の名作オペラ《ドン・ジョヴァンニ》序曲を連想させるニ短調の半音階が効果的につかわれている。あまり込み入った技法は使われず、四つの楽器がテーマを重ね合わせながら繰り返し奏する、といった範囲にとどまっている。私の独断かも知れないが、このふたつのフーガを見比べると、十七才のモーツァルトが四十才を過ぎたハイドンから学び、これに挑戦した心意気は窺えるが、フーガそのものの技法と完成度はハイドンには及ばない。それにしてもハイドンのカルテット、とくに作品二十は、ほんとうに素晴らしい音楽だ。古典音楽の傑作には数えられていないかも知れないが、まちがいなく後世の優れた見識が選び取ってきた名作であろう。そこには落ち着いた精神と、そこに基礎をおいた闊達な音楽の喜びがある。いきいきとした魅力を持った大人の音楽である。久元祐子著 モーツァルト 18世紀ミュージシャンの青春 P140より」

・作品20-6 イ長調
この終楽章のフーガも、二つの主題を持ち、一つは飛び跳ねるような主題、もう一つは下降音階主題。《太陽四重奏曲》の最後を飾るにふさわしい粋なフーガ。私は、これを初めて聴いたとき「なんと巧いフーガなんだろう。バッハやモーツァルト以外に、かくも美しいフーガを書ける人がいたなんて!」と思い、ハイドンの魅力を初めて知ったような気がしました。これを、発展させるとモーツァルトのジュピター第4楽章のフーガになるようにも思えます。

以上、拙い解説になりましたが、少しでも《太陽四重奏曲》の魅力が伝われば嬉しいです。そして、ハーゲン四重奏団の《太陽四重奏曲》について読者の参考になればと思います。私見では、この盤を聴くと、ハーゲン四重奏団の特徴が分かると思います。その特徴とは、リスナーを退屈させない計算された演奏。そしてそれを実現する技巧です。

【追伸】
したがって、私は、ハーゲン四重奏団のモーツァルト全集に期待し失望したのでした。

【HMV.co.jpへのリンク】
ハイドン《太陽弦楽四重奏曲》ハーゲン四重奏団

【Amazon.co.jpへのリンク】
Haydn: Sonnen-Quartette [Germany]

【参考文献】
モーツァルト―18世紀ミュージシャンの青春



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