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2007年3月23日 (金)

《マタイ受難曲》はお気軽に(2)

Bosch_cross_ghent

[つづき]
第2の山場は第2部《ピラトの尋問》です。

この場面は、有名な場面なので、詳しい説明は不要でしょう。暴徒と化した群衆の狂乱。それを収めようとする冷静なピラト。ピラトはイエスのことを「義人(杉山好訳)」と呼んでます。第50曲

Ich bin unschuldig an dem Blut dieses Gerechten, sehet ihr zu!
(この義人の血につきては、われ咎なし、汝らみずから当たれ!(杉山訳)

"Gerechter"には「正義の人」という意味さえあります。
上記最後の言葉"sehet ihr zu!(自分で始末しなさい)"は、"zusehen(自分でやる)"の命令形です。細かいことですが、これは、第2部、イエスを裏切ったユダが自殺する前に、彼が祭司長らから投げつけられた言葉と同じ言葉ですね。すなわち、第41曲

ユダ
"Ich habe übel getan, daß ich unschuldig Blut verraten habe.
(われ罪なき者の血を売り渡して、悪しきことを行えり)

合唱:祭司長たち
Was gehet uns das an? Da siehe du zu!
(われらになんのかかわりあらんや? 汝みずから始末せよ!)

ユダに投げつけた言葉を、今度は、ピラトから投げつけられる群衆。これは、ルター訳聖書の原文そのままですが、よく書かれていると思います。

《ピラトの尋問》での群衆の狂乱状態を聴くと、私は、ヒエロニムス・ボス(Hieronymus Bosch 1450-1516)最晩年の作品『十字架を担うキリスト』を思い出します(上図)。

《ピラトの尋問》の後、イエスは、ピラトから兵士達に引き渡されますが、ここで、有名なコラールが歌われます。第54番

O Haupt voll Blut und Wunden,
(おお、血と傷にまみれし御首:みかしら)
Voll Schmerz und voller Hohn,
(痛みと辱めにゆがみぬ)
O Haupt, zu Spott gebunden
(おお、嘲られんとて)
Mit einer Dornenkron,
(茨の冠を結われし御首!)
O Haupt, sonst schön gezieret
(おお、つなならば美わしき飾りに輝き、)
Mit höchster Ehr und Zier,
(こよなき誉れの飾りを頂く御首)
Jetzt aber hoch schimpfieret,
(いまは嘲弄の極みを受く)
Gegrüßet seist du mir!
(おん身ぞ、われには慕わしきかな)
杉山訳

これは、現在、日本のルーテル教会が使っている讃美歌集では第81番です。その歌詞は

血しおに染みし
主のみかしら
いばらの冠(かむり)
ああ、いたわし
さかえを捨てて
悩める主を
心をこめて
仰ぎまつらん

読者の方、どうぞ、ちょっと歌ってみてはいかがでしょうか。後で、触れると思いますが(ゲッセマネの第25番のコラールでも触れたように)《マタイ》のコラールは、バッハが演奏した当時、聴衆(会衆)も、ともに歌ったと思われます。

それから完全に話題が脱線しちゃいますが「おお、血と傷にまみれし御首/痛みと辱めにゆがみぬ」という歌詞を聴いて思うことがあります。イエスの顔は、茨の冠で、血だらけというだけでなく、殴られてますよね。福音書の記述にもそうあります(第36曲)。それなのに、上記のボスの絵にしても、その他のキリスト磔刑図にしても、顔はきれいなんですよね。もし、私が画家だったら、顔もアザだらけのイエスを描くと思うのです。そのほうが、リアルだと思うんですが、いかがでしょう。

以上、私は《マタイ受難曲》のクライマックスは《ゲッセマネの祈り》と《ピラトの尋問》の二つだけだということを述べて、この作品を整理し、読者の皆さんにこの作品が、そんなに複雑な作品ではないことを示そうとしましたが、この目的を達成するためには、まだ書かなければならないことがありますので、さらに続きます。
[つづく]


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